こちらのアイテムは2017/10/28(土)開催・第6回 Text-Revolutionsにて入手できます。
くわしくは第6回 Text-Revolutions公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

【新刊】インフィニティ第二章

  • 委託-26 (ファンタジー)
  • いんふぃにてぃだいにしょう
  • 凪野基
  • 書籍|A5
  • 132ページ
  • 500円
  • http://bluegray.self.jp/
  • 2017/9/18(月)発行

  • 「シャイネが人殺しにならなくてよかった!」

    女神が創った世界を精霊が彩り、魔物が破壊する。
    多種族混在世界を舞台に、男装の半精霊と記憶喪失の騎士、主人公ふたりのすったもんだの旅路を描く長編第二章。
    (続編のため試し読みの掲載はありません。当欄下部に一部を抜粋しています)

    大陸東岸の工業都市マジェスタットにやって来たシャイネとゼロ。
    精霊封じの工房を構える半精霊との出会い、朱金の眼を持つ黒い女との出会い、そしてシャイネの父・スイレンのかつての仲間との交差によって手札が返され、ひとつの過去が明らかに。 復讐か、それとも赦しか。
    揺れるシャイネの決断と、見守るゼロの静かな選択とは。 その頃、カヴェ神殿ではレイノルドが次なる一手を繰り出さんと神都神殿からの使者を迎え入れていた――。

    主人公シャイネが「女装男子&男装女子の集い」企画さんにお邪魔しています。


    ~~~ 本文抜粋 ~~~

     ところで、とクロアはだしぬけに刺突剣を指さした。ディーが身を竦める。
    「その剣だって全部知っているはずの話だけど、わたしが話していいのか」
    「教えてくれないから」
    「そういう内容の話だ、と言ってる」
    「承知してる」
    「復讐だものな」
     楽しそうに目を細め、影のように黒い女は続けた。
    「夜になってから鳥を召んで、連中の野営地に行った。様子を窺っていたら、わたしと話が通じるか否かで言い争いをはじめたから驚いたよ。ずいぶん長いこと揉めていたけれど、スイレンはわたしに誑かされたのだ、という結論に落ち着いたらしい。魔物と話をしようなんて馬鹿げている、お前はおかしい、とね。ここからは一人で行くと言ったあの人を、あいつらは」
    「……襲ったんだね」
    「そうだ。四人がかりで、呆れるほどめちゃくちゃにな。スイレンは反撃すらせずにやられるままになっていた。今思えば、スイレンが離脱したところへわたしが襲いかかれば奴らはひとたまりもなかっただろうし、手加減してスイレンに逆襲されても痛手だ。その恐怖があいつらを動かしたんだろう。けど、目の前で一番の使い手が同士討ちで殺されかけてるんだ。わけがわからなかった。人間たちがあの人に手を上げた理由も、暴力を向ける先がわたしではなくて仲間だったことも理解できなくて、わたしは何もできなかった。ただ、見ていた」
     言葉が途切れた。朱金の眼を見上げると不思議な揺らめきがあって、ことの真相よりもずっと鮮烈に雄弁に、衝撃に備えて構えた身を打ちのめしていった――クロアの眼が潤んでいる。
    「おぞましい、と思った」
     吐き捨てられた一言が、一切を物語っていた。そうだろう、そうだろうとも。
    「わたしは逃げた。スイレンは手の届くところにいたけれど、助けられなかった。わたしにできるのは壊すことだけだから」
    「僕を見て、すぐに身内とわかったんだな」
     雲の影がよぎって、すぐに晴れた。一帯が陰っていたわずかの間に、シャイネはクロアの朱金に怯えにも似た動揺が走るのを見た。
    「僕は父によく似てる。それはその通りなんだけど、たまたま出会った半精霊がスイレンの身内だなんてほとんど考えられないだろうに、僕を見ても驚かなかったよね。あなたは僕を知ってた。スイレンの子が半精霊だって。違う?」
     クロアは答えずに言葉を継いだ。
    「……怖い物見たさだったかもしれない。しばらくしてから野営地に戻ると、スイレンの姿はなかった。血痕はそのままで、どこにも移動した形跡がない。死にかけていたスイレンだけが完全に消えていたんだ。驚いたよ。もっと驚いたのは、わたしが鳥を放って捜し当てたとき、スイレンは遠く離れた北の地にいたことだ。精霊が手出ししたのでなければ彼が助かった説明がつかないし、精霊がしゃしゃり出てくるんなら、あの人に惚れてたとか、そういうつまらん理由なんだろう。なら子ができてもおかしくはない」
     最後は吐き捨てる口調だった。あの人、と言ったときに揺れた感情にまでは理解が及ばない。
     カヴェでシドウに聞いた話が裏打ちされた形だった。真相を知っても、ハリスらに覚えるざわめきは変わらず硬くつめたく凝っている。
     安堵と表裏一体の冷ややかさを察したわけでもあるまいに、クロアは舌なめずりせんばかりに一歩踏み出した。
    「あの連中を捜し出して復讐するなら、わたしが協力するよ。鳥だっていくらでも貸す」
    「そうやってカヴェの宿屋街を襲ったのか」
     そんなこともあった、と軽い頷きを目にすると、ハリスらを見つけてどうするのか決めかねて揺らぐ心に錘が投げ込まれた気分になった。
     復讐。それは何を意味するのか。うつろに広がる淵を覗き込むには勇気が必要で、そのくせ上辺を掬って名づけるのは易い。
     彼女の申し出を受けるわけにはいかない。深く考えたわけではないが、彼女の意図する破壊は、炎の精霊イーラが見せた残酷さに通じる。同種の力を欲することに、言いようのない嫌悪があった。潔癖と嗤われようとも手が伸びない。
    「僕は……僕がどうするかは、自分で決めるし自分でやる。力は借りない」
    「それもいいかもしれない。わたしの、半魔の力が必要になればいつでも言ってくれ。スイレンに受けた恩を返したいんだ、シャイネ」
     拒絶は予想されたものだったのだろう。クロアは食い下がることもなく、じゃあ、と袖を翻して影に溶けた。黒い外套が翼のように見えたのは気のせいではあるまい。
     彼女とはわかりあえる気がしなかった。話すことはできても、埋めようのない違和感が残る。シャイネとクロアはただ一点、スイレンという人物で交わっているにすぎず、これから接触を重ねたとしても、並んで立つ日はきっと来ない。いつかまた向かい合うことになる。それは確信だった。
     鳥型の死骸はまだ融解の途中で黒々とわだかまっている。交わした言葉、ふつふつと波立つ感情、ディーの沈黙まで、何もかも現実味がなかった。
    「田舎者だと思ってたけど、あんた、意外に顔が広いのな」
     まったく場違いなゼロの声音が初夏の青い風に散ってゆく。
     名乗っていないのに、クロアがシャイネを呼んだことがひどく不穏で、同時に半魔の存在は決して遠いものではないと実感した。

    (二節「半魔」より)

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