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片恋ポップエモーション

  • 委託-21 (ライトノベル)
  • かたこいぽっぷえもーしょん
  • 星埜ロッカ
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 118ページ
  • 800円
  • 2016/10/23(日)発行

  • 【男子高校生×片想い】


    登校途中道端で蹲る女の子に出会い、一目惚れしてしまった純太。
    ミステリアスな雰囲気漂う彼女と仲良くなりたい一心で純太はどうにか声をかけ親しくなろうと奮闘する。
    助けてくれたお礼がしたいという彼女に純太は……。

    三人の男子高校生たちの、青春はじける片恋三編を描いた連作短編集。


    片恋ポップエモーション 試し読み

    【Act1 花井純太の場合 冒頭】

     自転車をこぐのは好きだ。

    特に好きなのは朝、すがすがしい空気を感じながらこいでいるときが一番好ましく感じる。慌ただしい朝のひと仕事のあとでも、気分を爽快にしてくれるのが好きなのかもしれない。

     高校に入学して早半年、通い慣れた通学路を俺は自転車で駆け抜ける。

    自転車といってもママチャリなんだけど。実はこのママチャリ、中学の頃から愛用している俺の大事なチャリンコなのだ。なんでわざわざママチャリ……と思われるかもしれないが、俺にとってはこっちの方が使い勝手がいいんだよね。入学したての頃は同級生とかに物珍しそうに見られたりもしたけど、いまでは通学風景にも随分馴染んでいる。俺が普通の自転車乗ったら「お前ママチャリどうした?」って友達に心配されるから。……多分。

    夏も過ぎて秋めいてきた道端には、街路樹から落ちた枯れ葉が茶色の絨毯を作っている。

    いろんな明るい色が楽しめる春とか、緑の濃い夏なんかも好きだけれど、俺は秋とか冬の風景も結構気に入っている。なんというかこう、切ない雰囲気に浸れる感じがいいよなあ、なんて思ったりするわけだ。

    今日は少し時間に余裕があるので、それほど急ぐ必要はない。俺はいつもよりママチャリをこぐスピードを落とす。やわらかく吹く冷たい風に煽られても、少しも不快にならない。寧ろ気持ちがいいくらいだ。

    「いい天気だなあ」

     ぽつりと呟いたときだった。

     視界の端で、うずくまる人影を発見した。

     なにしてるんだろう。……え、もしかしてあのひと具合でも悪いとか?

     そう思ったら居てもたっても居られなくなって、俺はママチャリを急停止させた。邪魔にならないようにチャリを端に置いて、俺はうずくまるひとのもとへと駆け寄った。

    「だ、大丈夫ですか! どこか具合でも悪いんですか?」

    路の端でうずくまる後ろ姿に慌てて声をかけた俺は、そこでようやくそのひとが制服を着ていることに気づいた。濃茶のブレザーにチェック柄のスカート。同じ高校の制服だ。彼女の肩までの黒い髪が風に流れてさらさらと揺れている。

    反応がないことに焦り、俺はもう一度「あの」と声をかけた。

    瞬間、彼女がくるりと振り返る。見下ろすように眺めていた俺をゆっくりと仰ぐ。



    【Act2 椎葉佑司の場合 冒頭】

    「こんな時間に電話してごめんね。ユウちゃん、明日時間ある? 会って話したいことがあるんだけど」

     夜の十時過ぎ。自室のベッドに寝転んで漫画を読んでいたら、スマホの着信音で現実に引き戻された。

     表示された名前を確認して「なんだよ」とぶっきらぼうに電話に出ると、先ほどの言葉が返ってきた。

    いま話せばいいのにと思う。できるだけ外では会いたくないというのが俺の本音だったからだ。

    「いまじゃ駄目なのかよ」

    「うん……直接会って話したいと思って」

     神妙な雰囲気の声音に、俺はそれ以上問うことができなくなってしまった。

     いつもの調子とは違った、少し緊張を孕んだ声。いま電話では言えないという話。

     理由なんて特にないけど、なんとなく嫌な予感がする。

    突然雨雲が発生し、気分が落ち着かなくなって、しまいには頭痛に襲われてしまったときのような。そんな不快感が俺を包み込む。

     俺はイライラを溜息のなかへ込めて吐き出した。吐き出されなかった苛立ちが、まだ内で燻っているのを感じる。

    「……わかった。放課後なら」

    「よかった。じゃあ待ち合わせは公園でいい? ゾウの公園に四時半で」

     最後の声は安堵を含んでいた。通話を終了すると俺はスマホをベッドのうえに放り投げる。

     もう一度漫画を読む気にはなれなかった。無駄に天井を見つめ続けていると、先ほどの電話が無性に腹立たしく思えてきて盛大な舌打ちが零れた。

    「くそっ」

     電話ひとつで気分が害されたことがひどく馬鹿らしく思えて、俺は電気を消して早々に眠りにつこうとした。が、胸のうちに生じた靄のおかげで、眼を閉じてもなかなか寝つくことができなかった。

     

     睡眠不足のせいもあって、朝からダルくてしかたなかった。

     あくびを何度も繰り返しながら学校に到着すると、友人たちに「大丈夫?」とか「しっかりしろ」なんて声をかけられた。返事をまともに返すのも面倒で曖昧に頷いてやり過ごすことにする。

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