ただひとつ、願いがあった。 ――世界の終わる前に。
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二人の旅人の物語です。
一人目の旅人は、世界中の人々が天へ至りもはや終わる世界にたった一人残されて、どこへ行くとも知れぬ旅をしています。何故、彼女は世界に残され、旅をすることになったのか。その答えは、もう一人の旅人のお話の中に隠されています。どちらのお話にも、最後に竜が出てきます。
「ヨブ記」と「星の王子さま」を足して割って自分なりに味付けしたらこうなったという感じのお話です。テーマとしては、義人の苦難、終末、愛とは……といったところでしょうか。私の書いた話の中では比較的重めかも知れません。
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感想を書いていただいています。
ぜひご覧になって下さい。
世津路章さま
Text-Revolutions
荒野の竜
http://text-revolutions.com/event/archives/2606 ------------------------------
一 終わる世界 人は、天へ至る道を知った。
それは、一握りの賢者だけでなく、あまねく人々の知るところとなった。
そして世界は終わった。
かつて人の住んだ地は、沙漠となり、終わる世界を風が吹き抜けた。かつて人の駆けた空は、風と共に現れた竜たちが舞っていた。
世界が終わってから、時間は意味を成さなくなった。夜も昼もなく、夕べも朝も訪れない。
永久に果てぬ時の中を、ひとりの旅人が歩いていた。 ……
二 旅人の願い 墓標に刻まれた名には、姓がない。親に捨てられた子を、教団が引き取ったのだ。そうして育てられ、教団のために働く者となった。読み書きはできたが、難しいことは分からなかったという。故に与えられた仕事は、ごく簡単なものだった。神殿の掃除、草花の手入れ。いつしか、出会ったのだろう。あの人に。天の御子と呼ばれる彼女に。 どんな言葉を交わしたのだろうか。知ることのできないその風景は、どんな色だったのだろう……。 涙が流れた。 望みがあった。小さな望み。世界の終わりを前にして、叶うことのない願いがあった。 そして彼は旅人となった。……