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君を探してた

  • B-12 (ライトノベル)
  • きみをさがしてた
  • きと
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 86ページ
  • 400円
  • http://www.pixiv.net/novel/sh…
  • 2016/5/1(日)発行

  • 表紙担当:mononofu様

    【裏表紙あらすじより】

    陽はウリ専だ。自分の体一つで生きている。

    生き延びる糧も得られて肌に合っている。これは天職。
    そう思うも虚しい日々を潤すのは、人気モデル・一人の存在。
    撮影場所を追いかける程の熱狂的なファンだったが、
    その線が交わる事など考えてもいなかった。

    ある日、妙なカメラマンと出会うまでは……。

    【冒頭見本】


     獣にも似た鋭い光を孕む目。長い睫に縁取られた瞳は、憂いにも似た艶を見せる。  無用で醜い脂肪や筋肉が削ぎ落とされたしなやかな肢体は、ボクサーを連想させた。際どい減量で絞り上げる、軽やかで、ともすれば好戦的にも見えてしまう肉体は、しかし彼のストイックさを醸し出す重要な要素だ。  単純にカッコイイ、と男も憧れる容姿は、だが雑誌などの紙媒体や公式サイトに載せられた数枚の写真でしか見る事ができず、彼が表紙を飾る雑誌はジャンルを問わず売れていく。敢えてメディアでの露出を抑えている事によってファンは飢餓感を煽られ、その分だけ彼から目を離せなくなってしまう。まさに見られるための存在、と言ってもいい。
     週刊誌の記者達などは彼のスキャンダルを追い、日々奔走している。だが、公式発表にある十五歳でのモデルデビューから八年もの間、彼の醜聞が見出しになった事は一度もない。皆が知っている名前が本名なのか、それさえも定かではなく。そのくせ気軽に出身地である新宿に出没して、更に撮影までしていると言うのだから、一体どんな生活をしているのだ、とファンの好奇心を刺激させる男。
     一人、と書いてカズヒト。
     彼はこの日本の若者達の世界に於いて、そう言う存在であった。


     そんな一人が無表情で写っている雑誌の表紙を撫で、陽は言葉にならない思いで身を捩りながらソファーに倒れ込んだ。寝転がったまま、今度はジタバタと足を暴れさせる。
    「かっこいぃいい……ッ!」
     ひたすら身悶え続けている陽に対し、カウンターの中で開店準備をしていた年若いバーテンダー……花衣が穏やかな笑みで呟いた。
    「ねぇ、大分気持ち悪いんだけど」
     その言葉に、しかし陽は応えない。雑誌を抱き締めたまま、うっとりと遠くを見つめている。花衣は肩を竦め、料理の仕込みに意識を戻した。慣れた手付きで、野菜を刻む。
     包丁がまな板を叩く音だけが響いていた店内で、カラン、とドアに付けられたカウベルが鳴いた。カツカツとハイヒールを歌わせながら入ってきたのは……大柄な〝美女〟だった。ドアを通るのに身を屈めなければならない程の長身。バランスの良い体をチャイナドレスで固めているが、その肩口から覗く腕は逞しい。濃いめの化粧を施した顔は美しく妖艶で、特に瞳の力が強かった。そんな自信に満ち溢れた美貌に、機嫌が良さそうな笑みを浮かべている〝美女〟。
    「おはよ、花衣、陽」
     呟く〝美女〟の口から漏れたのはテノールの美声。明らかに男の声で、ただ普通に囁けば女性も赤くなってしまうだろう甘さだが、いかんせん言葉遣いが男とは程遠い。
     純然たる〝おねぇ〟である。
    「希さん、おはよ。今日も綺麗だねー」
    「ありがとう、この口紅新色なのよ」
     希が、陽が抱き締めた雑誌に目を留める。
    「それ、新しい雑誌?」
    「ううん、古いヤツ。古本屋で見つけたの。一人さんが十九歳の時! もうっ、俺と同い年でこの色気ってありえなくないっ!?」
     キラキラとした瞳で表紙を見せてくる陽に笑い、希がカウンターの椅子に長い足を投げ出すようにして腰掛ける。花衣に酒を頼みながら、小さなクラッチバッグから煙草を取り出し着火。紫煙を天井に向かって吐き出し、子供を見るような目で陽を見やった。
    「だから言ってるじゃない。新宿出身なら絶対ツテあるって。探すわよ?」
     陽はその言葉にブンブンッと首を振った。
    「ダメダメダメ、絶対無理。絶対無理!」
    「何でよぉ~、いいじゃないの。好きなんでしょ? 会いたくないの?」
    「だってオレ、絶対死ぬ。本物なんかとしゃべったら惚れ死ぬ!」
    「新語ね、惚れ死ぬって」
     そう言って、ジンをストレートで注いだグラスを傾ける希。そして、そうそう、と彼女には似つかわしくないブルーのビニール袋を手にすると、その中から一冊の雑誌を取り出して陽の目の前に差し出した。絶句する陽。
    「たまたま見つけたのよ」
    「でっ……でも、これ発売、明後日……!」
    「あら、そうなの? 普通に並んでたわよ」
    「くっ……くれるの……?」
    「そのために買ってきたのよ」
     笑う希に「ありがとう……!」と感極まった様子で礼を言い、その雑誌を震える手で受け取る陽。その雑誌の表紙には、悠然と不敵な笑みを浮かべた一人の姿。陽のテンションが上がるのも仕方ない、と言う話で。
     ソファーに戻り、正座で恐る恐る表紙に手を伸ばす。そしてペラ……と表紙をめくり、ぎゃぁあ……と言う細い奇声を発しながらソファーに倒れ込んだ。バンバンッとソファーを叩き、涙目になりながら身悶える。
    「惚れ死ぬ……ッ!」
    「……本気で好きなのね……この子」
    「軽く引くよね」
     淡々とした言葉を希と花衣で交わしていると、不意に軽快な電子音が希のクラッチバッグの中で鳴り響いた。相手を確認し、通話ボタンを押す希。一言二言交わして、会話はすぐに終わる。携帯を仕舞うと、陽に「仕事よ」と呼びかける。
     雑誌を見ていた陽が、その言葉ですっと表情を消した。今の今までニコニコと雑誌を見つめていたと言うのに、驚くくらいの変わり様だ。雑誌を閉じて、無表情に「誰?」と希に問い返す。
    「小林さん……ほら、こう……丸い人よ。随分前に一度会ったでしょ」
     手で円形に近いシルエットを示す希に笑い、あの人か、と小さく頷く。
    「前と同じ場所に一時間後。行ける?」
    「うん、もう出て何か食べてく」
     軽く伸びをしてソファーから立ち上がり、脱ぎ捨てていたパーカーと雑誌を入れたトートバッグを手に店を出ようとする陽。だが思い出したように立ち止まり、希に言った。
    「あの雑誌、何処に売ってたの?」
    「どうして?」
    「あと三冊買わないといけないから」
    「三冊もどうするの? もう一冊あるんだからいいじゃない」
    「オレ、一人さんの雑誌はできる限り四冊買うって決めてるんだよね」
     その言葉に、その用途を指折り数え始める希。確かに四冊は不思議であろう。
    「読む用、保存用、人に貸す用……後は?」
     それに陽は、
    「ヌく用」
     とだけ答えて店を出ていった。
     その背に、希が苦笑混じりで応えた。
    「後で連絡するわ」

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