夏は歌う、彼女への祝福のために。
「架空近現代」の「夏」×「少年少女」×「異類婚姻譚」ひとりアンソロジー、開幕。
大正、昭和、そして平成。
これは眠りゆくみっつの、どこか不可思議な時代を舞台に、少年少女が駆け抜けた夏と、異類婚姻譚が成就の文字で結わえられるまでを描いたひとりアンソロジーです。
「サムシングフォー」と呼ばれる、幸せな結婚を願う西洋の慣習をモチーフに、三編の中編と、三編の短編を縒りまとめました。
【特殊装丁】カラーカバー/本文2色刷り/疑似小口染め
01「炎天椿」
その夏、椿の咲かない屋敷の奥で、少女は冬に満たされた座敷と、そこに住まえるうつくしい少年を見出した。
異相の双眸を持つ彼を追いかけて、彼女は触れることを禁じられていたはずの座敷の奥へ。
境界線を踏み越えた先で、少年少女が目にしたものは――
境界線と朽ち花の、近代和風奇譚。
02「Something old」
僕の姉は、高等女学校を卒業した後、父からもたらされる縁談も何もかもはねのけて――そしてかの七月に、とうとう家を出ていった。
そんな姉の行いや、出奔を控えた彼女がのこしていった言葉を不思議に思った僕は、母の実家である筥崎の家へと、姉の過去を知るらしい……うつくしい男を訪ねてゆく。
「炎天椿」後日談。
03「華燭金魚」
出征していった兄の身代わりとして、金魚の婿をつとめる少女と、彼女の花嫁に仕える少年。
ふたつの婚礼に翻弄されるほかないふたりは、海神の姫君として祀られる金魚をめぐり、海辺の街へと逢瀬に出かける。
――あなたが守ろうとしたものの、今際の名残を見てみたかった。
なにせこの街は明日、神様ととことわに袂を別つ。
初夏を迎えた戦後の街で、少年と少女がさまよい歩く、さいわいなる永訣の物語。
04「Something borrowed」
「さよなら」から三月後の九月。
緑は今日も一人で過ごし、夫の帰りを待っている。
「わたしは旦那様のことが、好きになれない――」
そんな悩みを抱えながら、彼女は今日も夫を迎えに、七橋百貨店のパーラーへと赴くけれど……。
「華燭金魚」後日談。
05「糸雨の残躯」
女学園に在籍する少女・水紀は、白樺の母親と人の父親の、異類婚の夫婦の間に生まれた子供。
けれどそれゆえに、学園では孤独を深め、裏庭に咲く、言葉を解すひまわりたちと、ひそやかに過ごしてばかりいた。
そんな彼女とひまわりたちのもとへ、ひまわりたちが「おかあさま」と呼ぶ少年・遊が訪れる。
短くて眩い夏季休暇のさなか、少年少女は、ぎこちなく指先を伸ばし合うが――。
異類婚も、言葉を話す植物も、当然に存在する架空現代を舞台としたエブリデイマジック。
06「Something new」
ひとつの時代が、終わろうとしている。
そんな高校最後の夏の季節を、水紀はひまわりたちがさざめく裏庭で、遊とともには過ごさないことを決めた。
「糸雨の残躯」後日談。