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イヤサカ

  • い-04 (小説|エンタメ・大衆小説)
  • いやさか
  • 清森(丹羽)夏子
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 268ページ
  • 1,000円
  • 2017/10/28(土)発行
  • 女装男子が初恋の女の子を取り戻すために
    強い戦士の男を目指して頑張る神代和風ファンタジー。
    約10万字、完結済み。

    【イラスト】
    nicco 様   http://idaten2.web.fc2.com/ https://twitter.com/c09sha

    【あらすじ】
      火山・神の火の山を祀る民の統率者、巫女にして女王の一族に生まれたナホは、男児でありながら女児にしか持ちえないはずの炎を操る異能を持っていたがために女装をして女王として振る舞うことを強要されていた。
     少年である自分を押し殺して生きることに納得していた――つもりだった。
     ある時神の火の山に海から異民族が襲い掛かってくる。
     和平のため人質として嫁に出されたのは、ナホの幼馴染にして第一の従者であるノジカだった。
     ナホには連れていかれるノジカに声を掛けることすら許されない。
     何とか現状を変えてノジカを取り戻したい。
     ノジカと自分自身を取り戻すための闘いが始まった。

    【本文から抜粋】
     戸が引かれた。
     アラクマがひとりで立っていた。
     彼は黙って部屋に入ってきた。すぐに後ろ手で戸を閉めた。
     戸を閉め切っても窓から入る月明かりで部屋の中は明るい。互いの顔がはっきりと見える。
     化粧は勇気のまじない、夜着は戦装束だ。相手にとって不足のない、強く美しい女に見えるといい。
     覚悟は決まった。
     ところが、だった。
     アラクマは、無言で部屋の真ん中へ移動すると、ノジカが座っているのとは別の、もう一組の布団の端をつかんだ。
     そして、戸とは反対側の壁へ寄せるように引っ張り、ノジカの布団との間に距離をつくった。
     自分の布団に横になる。
    「寝ろ」
     アラクマが何をしたいのか分からず、ノジカは目をまたたかせた。
    「どういうつもりだ」
    「いいから黙ってもう寝ろ」
     思わず尻を浮かせた。
    「貴様何もせずに寝る気か」
    「ああ。ここのところ戦続きの旅続きで疲れてるからな。少しでも休みたい」
    「初夜だぞ、花嫁に恥をかかせるのか」
    「そんなに俺に抱かれたいのか? 意外だな、あの大部族マオキの姫君だからもっと強情で気位が高いお姫様かと思っていたのに、そんなに軽々しくカンダチの野蛮人に身をゆだねていいのか」
    「軽々しくではない、マオキ族とカンダチ族の同盟のために子をつくるのではなかったのか? 私はマオキの姫としてカンダチの長の子を産むんだ」
    「勇ましいお姫様だな」
     枕の上に肘をつき、手の上に頬杖をつく形で顎をのせる。
    「これっぽちの気持ちもない女を犯して悦ぶ趣味はない。お前が損得抜きで俺になついてきたらにする」
     拍子抜けして、ノジカは布団に尻をつけた。
    「カンダチの族長は世襲制ではないから、焦って子をつくる必要はない。自分は母親が嫌々産んだ子なんだと思ったら子供は不幸だ。でも子供は嫌いじゃない、人は殖えた方がいい。心底産みたくなったら種をつけてやるから改めて言ってくれ」
    「なんだか……、お前は意外と乙女趣味なところがあるようだな」
    「たまに言われる」
     姿勢を崩して、足を前に出して膝を抱える。肩から力が抜ける。
     相手は、なにも、恐ろしい蛮族の王というわけではないらしい。少なくとも、荒々しくされて痛い思いをするということはなさそうだ。
    「お前に何かあったら今度こそ刺される気がするしな」
    「誰に」
    「マオキの村に泊まった夜、ちょっと面白い出会いがあった」
     布団に身を横たえつつ、アラクマの顔を眺める。愛想がないように感じるが、特別攻撃的にも思われない。
    「誰かマオキの人間が何かしたのか」
    「マオキ族じゃないだろ。追い詰めたら手から炎を出した」
     聞いた途端胸が冷えた。
    「あれがお前らの言うところの神の力なんだろ?」
     ナホだ。
     脈が速くなるのを感じる。けれど顔に出すわけにはいかない。
     ナホがノジカの知らないところでアラクマに接触している。
    「名乗ってはいないのか」
    「ああ、問い詰める前に火を噴きながら逃げた。でもあれがホカゲ族だというのは分かった。そんな妖術使いどこを探しても他にいないはずだ」
     何と言おうかと考えあぐねていたが、
    「ホカゲ族には男もいたんだな。噂では女ばかりだと聞いていたが、王になれるのが女限定というだけで、別に男がいないわけじゃないのか」
     ノジカは少し、考えた。
     ひょっとしたら、遠くから来た異民族のアラクマは、ホカゲ族がもうナホ一人しか残っていないことを知らないのかもしれない。女王を装っていないナホを女王ナホだと思わなかったのかもしれない。
    「知り合いだろ? 心当たりあるだろ」
     おそるおそるながらも、ノジカは頷くことにした。
    「彼が、何を?」
    「あのガキ、俺がお前を連れていくことが不満らしくて、夜中に剣持って俺の寝込みを襲いにきたぞ」
    「えっ」
     驚きのあまり声を出したノジカを、アラクマが声を殺して笑った。
    「あの子が、そんな、こと」
    「この俺を殺そうとするくらいだ、よっぽどお前に惚れてるんだとみた」
     ナホが、自分に惚れている。
     胸に熱いものが込み上げてくる。
     親同士が決めたいいなずけだからというわけではなかったのだろうか。ナホは本当にノジカをと望んで夫婦になれる日を待っていたのだろうか。
     ナホは無鉄砲なところはあるがけして愚かではない。女王としての体裁を考えたらカンダチの族長の暗殺など無茶だと分かる程度の分別はあるはずだ。それをおしてでもアラクマを殺したいくらい憎むほど、ノジカが奪われることを悔しいと思ったのだろうか。
     目の前が涙で歪んだ。
     別れる直前の朝、ナホは腫れ上がった頬をしていた。どこで誰に何をされたのかけして言わなかったが、アラクマと揉み合ったのかもしれない。
     そんな痛い思いをしてでも、ノジカを取り戻そうとしたのか。
     馬鹿、と言って叱ることすら叶わないほど遠くに来てしまった。
     アラクマに背を向け、掛け布団で頭を覆う。
     それでもナホは耐えた。我慢してノジカを送り出した。ナホはきっと自分の気持ちだけではどうにもならないことを知ったのだ。
     今頃きっとひとりで噛み締めている。
     すぐに抱き締めてあげたい。
     こんなことならもっと早く通じておくべきだった。ナホにそういう気持ちがあったのならせめて思い出のひとつでも作っておくべきだった。
     もう会えない。
     ノジカは初めて寂しいと思った。ひとりでカンダチの村に来たことを、心細いと、つらいと、マオキの村に帰りたいと思った。
     ナホを、愛しいと思った。
     あの子も今頃寂しがって泣いているかもしれない。

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