四か月ぶりのコーヒー、夕暮れどきに始めた環状線のドライブ、枕もとで流れる深夜ラジオ…。
言葉にならない思いを抱える恋人たちの物語。web再録7編+書き下ろし1編。 表紙イラスト:小山璃子様(pixivID 57095836)
サンプル:
https://www.pixiv.net/artworks/87215071 <本文より>
四か月ぶりにコーヒーを淹れようと思った。
一日の最高気温がようやく二十度を下回った十一月のある日。キッチンカウンターの隅で、ホウロウのコーヒーポットはうっすらとほこりをかぶっていた。「u」
流れ着いた花びらが、中洲の縁へ溜まってゆくのを見下ろしていた。はじめは線をひいたような細さだったのが、いつしか帯となっている。「流れる」
N市の都市高速環状線は、全長三十五キロ、一周に要する時間は約三十分。ゆるやかな弧を描いてひろがる水平線や、埋め立て地に立ち並ぶマンションを助手席で眺めていると、いつの間にかその円は閉じる。「オールド・コーヒー・ビーンズ」
ラジオの音を低く絞って眠るのが、楓は好きだった。「ミッドナイト・レディオ」