私たちが出会ったのは、本当に偶然。たまたま、美術館の展示室にいたから。
でも、ほんの少しずつの勇気が、止まっていた私たちの時を動かし始めた。
通販直通ページ:
https://text-revolutions.com/staffdaikou/products/detail/1649
現代の架空の北ドイツの都市で、ブラック企業に勤める社畜女子(25歳)とフランスからやってきた中世史を専攻する男子(21歳)が、美術館で出会って色々ありながらも想いを深め合う恋愛小説(多分)の準備号です。
本編は2021〜2022年に発行予定です。
無駄に凝った本編割引チケット付きです!
タイトルがふざけていますが真面目なお話です。 すみません、タイトルを考えるのが超苦手なので準備号の今回はこれで許してください……。 本編発行時にちゃんとしたタイトルにします……!
この物語は、一人称が全員「私」の、三人の主人公の目線で語られる話です。
この準備号では、本編第1章と、三人の主人公の紹介、物語の背景、おまけの四コマ漫画が掲載されます。
無料配布ですので、遠慮なくカートに入れてあげてくださいませ〜!
作者が大喜びします!わーい!
【三人の主人公紹介】
アデレード(愛称アデール)
25歳ドイツ人女性。ブラック企業に勤める疲れ切った女性。
ウェーブのかかった蜂蜜色の金髪、アイスブルーの瞳、モデル体型の美女。
心優しい性格で、若干天然。
男性に対して諸々のトラウマがあり、恋愛がうまくいかない。
家族構成は両親、妹。しかし父親は暴虐な性格で現在縁を切っている状態、母親は夫のクソさに嫌気がさし男を作って逃亡。妹はシスコンのニート。
ルドヴィク(愛称ロゥ)
21歳フランス人男性。パリっ子。中世史を専攻する大学生。ドイツに留学中。
薄暗い金髪、純色の青の瞳、ギリシア・ローマの彫刻のような立派な体格のイケメン。
生真面目で考えすぎる性格。言葉が足りないため誤解されることが多い。話し口調はノーブル。
両親がラブラブなため「あんな結婚をしたい」と思うあまり考えすぎて逆に恋愛に臆病になった。
家族構成は父(フランス人)、母(ノルウェー人)、4歳年下の妹と弟(双子)。両親が過保護すぎて遅い反抗期気味。
コンスタンス(愛称コニィ)
17歳パリジェンヌ。リセに通うロゥの妹。ロゥとは毎週無料通話ソフト(スカ◯プ的な)で話をしている。
明るい金髪、青い瞳、少年のような体型の(つまりまない……あっうん)美少年顔の美少女。
明朗なしっかり者で、リセの人気者。フェンシングが得意で成績優秀(天才肌)。お兄ちゃんが大好き。
不器用でやや無防備な兄を心配している。ロゥの一番の理解者。
この物語の登場人物は、私がとあるゲームをプレイする際に作成したオリジナルのキャラクターを、現代世界に合わせて設定を再構成しています。詳しくはこの無料配布の冊子で!
本編は、西洋史、美術、博物館、ヨーロッパ、海外旅行、ラテン語……がお好きな方にキュンキュンくる内容……にしたい……と思っています。
【試し読み】
第一章 馴れ初め
休日は、本当に久しぶりだった。
何連勤したのだろう?
誰もいない小展示室の中で、長くうねる髪をかきあげ、私は思わずため息をついた。
(どうして、こんなことになってしまったんだろう……)
自分が入社したばかりの時は、こんな酷い状況ではなかったはずだ。だが、一年前に新しい社長が就任してから、すべてが変わってしまった。
はぁ、と、もう一度ため息をつき、適度に弾力のあるクッションを使っている展示室内の椅子に、腰を下ろす。
この小展示室は、中世の写本ばかりを展示する部屋で、普段から観覧者もまばら、今日に至っては私しかいない。
私は、休日にこの小展示室を訪れるのが好きだった。
北ドイツのとある地方都市が、今の私の居住地だ。勤務する会社があるから、ここに引っ越してきた。港があり貿易業が盛んなこの街は常に活気があるが、古くからの街なので中心から外れたところに旧市街地がある。そこには、中世の木組みの家が残っていて、観光客が楽しそうに歩いているのをよく見かけた。その旧市街地の中に、この美術館は建っている。
街の中で最も大きい美術館の中のこの部屋は、メインの展示室のような華やかさはないが、そのかわりに人々の喧騒もなく、仕事で疲れた体を癒してくれる静謐さがあった。
写本に囲まれていると、なぜか心が落ち着く。なぜなのかは、うまく説明できないけれど。
傍に置かれている図録を取り上げてめくったとき、入り口の扉が開いて、新しい観覧者が入ってきた。
珍しいな、と、思い、顔を上げる。入ってきたのは、背の高い男性だった。入るなり彼は、革の鞄からメモ用紙と鉛筆を取り出すと、ガラスケースを覗き込み、真剣な、というよりは、どことなく厳しい顔つきで、メモを取り始めた。
研究者か何かか? と思ったが、大人びた顔つきの割に、シャツとジーパンという格好だったので、おそらく学生なのだろう。きちんとアイロンのかけられたシャツはパリッとしていて、背筋のスッと伸びている彼によく似合っていた。
彼は、私が同じ部屋に存在していることなど気づきもせず、一心不乱にメモを取っている。
(生真面目そうな学生だな)
彼は厳しい顔つきだったが、とても整った顔立ちをしていた。ギリシアとかローマの彫刻のような堂々とした体躯の彼は、少々薄暗い金髪を襟足のところで揃えている。全体的に清潔感が漂う、この展示室にふさわしい存在だ。
……と思ったところで、私は、なぜか彼を観察していたことに気づき、ひとりでバツが悪くなった。彼が気づかないからいいものの、勝手に人をじろじろ見るなんて。
三度目のため息を吐き、そういえば、彼は、スマートフォンで展示物を撮影していないことに気づく。
展示物は、フラッシュをたかなければ基本的に撮影可能だ。来館記念として、若しくはSNSに上げるために写真を撮っている来館者は数多い。だが、彼はそうしたことをせず、ただひたすらメモを取っている。もしかしたら、大学のレポートで使うのかも……。
彼が自分の目の前を横切ろうとしたとき、
「あの」
私は、図録を手に立ち上がっていた。
学生は即座に手を止め、目をこちらに向けた。
「一階のミュージアムショップで、ここの展示室の図録を売っていますよ。所蔵品がだいぶ網羅されているから」
彼は厳しい顔つきのまま、目を瞬かせている。私は構わず、図録を差し出した。相手はためらいがちにそれを受け取り、パラパラとめくる。そのうち指が止まって、ある一ページを凝視した。どうやら、彼がメモを取っていた写本のようだ。
「興味があれば……。でも、ミュージアムショップは、この美術館の閉館十五分前に閉まるの。今、四時半だから、もう行ったほうがいいかも」
彼は図録を閉じて、それから、腕時計を見た。スマートウォッチの類ではなく、上品そうなアナログの時計。
「ミュージアムショップの奥の、ちょっと目立たない、研究紀要と同じ棚のところにあるから。急いだほうがいいよ」
「承知した」
彼は、一言そう言って、お辞儀をするように軽く頭を下げてから、大股で展示室を出ていった。
(承知した、って、随分堅苦しいなぁ)
私は苦笑して、椅子に座った。
彼は、無事に図録を見つけられるだろうか。間に合えばいいけれど。レポートで使うのならば、是が非でも手に入れたいだろうし。
(懐かしい。私にもそういうことがあったなぁ。まだ数年しか経ってないのに、遥か昔に思える……)
過ぎ去った日々を回顧し、私は何度目かのため息をついた。