【そのようにして、魔法は失われた。】
【長編小説 / 四六判 / オンデマンドフルカラー表紙 / 250P】
透明な街、うつくしい街、ちょうど日付が変わる頃のこと。
一人の優しい娘が、唐突に、身に覚えもなく、一本の樹木に変えられてしまう。
真夜中の熱帯雨林に立ち尽くし、かつて人間だったその樹木は夢を見る。
そして思い出す。
子供のころ、すぐ間近に、樹木へ変身できる人間が居たことを。
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風景幻想特化のハイファンタジー小説です。
個人雑誌『walking postcard』で連載していた「the letter from “rain forest”」に完結編を加え、一冊の書籍にまとめました。
連載時の表現・設定・展開に変更を含みます。連載分をお読みくださった方も、ぜひ物語の始まりからもう一度、お楽しみいただければと思います。
【本編目次】
第一章 雨の歌う町
1 いつか帰る場所
2 相槌と挨拶
第二章 あなたは孤独ではない
3 鳥市場
4 雲と煙の兄弟
5 スコールと木々のダンス
第三章 言葉のない世界
6 木喰い蔓
7 カルス・メリステム
8 草木交信
9 彼らは人間じゃない
10 極相林
11 変身
第四章 楽園の善良な樹木
12 現実
13 魔法の杖
14 愛しいあなたのために
15 剪定鋏
16 楽園の優しき人々
樹木たちは語る
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夜が明けると、村に人間は一人もいなかった。少年は、昨日まで人間だった蛾や蝙蝠や蛙の群れを引き連れて、森の奥へ帰っていった。彼らを近くの水辺に放し、昨日まで人間だった様々な種は、すべて母の根元に蒔いた。やがて、その一帯は花が咲き乱れ、蜜に誘われた鳥や獣の歌声で、いつまでも賑わうようになったという。