これは人間に飽きた神様の仕業なのだ。そう騒ぐ人がいたりいなかったり。
それが真実かどうかなんて正直どうでもいい。
ただ、今のこの、底の見えない恐怖に包まれている状況がとてもうるさい。静かに、一人でいるように生きていたいだけなのに。
世の中は雑音だらけだ。あれも、それも、これも、全部聞きたくない。けれども、どうしても嫌なものが耳に入ってしまう。
だから、静寂を求めてヘッドホンをする。音は、何も聞こえない。理想の世界が、ヘッドホンを通じて広がっていく。
海の底に沈んでいくような、何もかも失われていくこの感覚が、最高に心地いい。ただの物体に成り果て、身という身を貪られるのも悪い気はしない。
そんな妄想を繰り広げていたそのときであった。ヘッドホンが誰かに奪われた。
「あっ……やめっ」
「何してんだよ。あ、また変なことしてたのか?」
「……変じゃない。心を落ち着かせてただけ」
「どうせくだらない妄想だろ」
意見を全否定してくるこいつは、ずかずかと近寄ってきてベッドに腰掛ける。
「眠れないのか?」
「……うん。もっと、静かになりたい」
「ここにいれば大丈夫だ。こんなのがなくても、横になって、目を閉じて、力を抜いて、ゆっくりと呼吸……やってみろ」
言われた通りのことをしたって、どうせこのままだ。だが、やらないと面倒くさい説教が待っている。
横にはなっているから、まずは目を閉じる。それから力を抜いてゆっくりと呼吸。
いつだか呼吸の間隔についてもくどくどと言っていたような気がするが、そんなことは忘れた。
この行為は嫌いじゃない。けれど、今はあまりそんな気分ではなかった。適当にやり過ごしておこう。
自分の息遣いだけが部屋に響く。鼻が詰まって苦しそうな音だった。
これ以上横たわっているのが難しくなり、目を開けて飛び起きてしまった。
部屋には誰もいない。さっきまでいたはずの姿がない。
「……夢?」
どれが現実で、どれが夢だったのか。正直よく分からない。
けれども、頭はやけにすっきりしていた。
もしかしたら、来てくれたのは本当で、よく眠れるおまじないでもしてくれたのかもしれない。
いない相手に感謝しつつ、部屋の灯りを点けたのであった。
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