台風接近のため、開催は中止となりました。詳しくはText-Revolutions準備会のページをご参照ください。
129番路地。
とある地方都市の駅から1キロほど歩くと、その路地はある。閑静な住宅街と昔ながらの商店街との境界を引いているような風除けの常緑樹に外縁を彩られた閑静なこの路地は、いっぷう変わった店が集まっている。
奇縁のなせる業か、はたまた類が友を呼び寄せた所産か、かれらの店に意思を持って訪れるものもあれば、いつもの風景と気にも留めずに日々通り過ぎるものもあり、そうかと思えば、路地にうっかり彷徨い込んでしまうものもいる。
さて、路地を訪れるものと住まうものとのつかの間の交錯は、はたしていかなる景色を生み出すのか──
当方のツイッターにてちょこちょこ現れる「ちいさな店の店主と路地」のちいさな物語集です。
「文箱預かり商」「恋文屋」「時計修繕士(開店準備中)」「塔」「居酒屋(ただし看板判読不能)」の五話収録。
【冒頭お試し約千字】「文箱預かり商」
──伝えられなかった想い、けして抱え込んでいてはならぬ情。それを心にたしかに存在させていながら、しかし、つつがなき日々を営もうとする決意で蓋をし、ひとり己のなかに封じてしまおうと決めた想いを、ふとした弾みで手紙にこぼしてしまっていた。
まぎれもなくいつわりなき想いは、息もつかず推敲もせずしたためた手紙にあふれている。しかし、自分も相手も毀さずに生きていくためには、書きあげたこの手紙を、けして投函してはならない──
されど、血の出るほどに唇を噛み締め、息押し殺してひた隠しにしていた真情を綴った手紙となれば、破り捨てなんとする指先が震え出す。とはいえ時刻薬(ときぐすり)に後事を託し、手紙を手許に置いておけば、いずれ秘密の露呈する時を招来してしまう危険がつきまとう。
そうした、届くことすら願ってはならない手紙を一手に預かるのが、百二十九番路地にある「文箱預かり商」である。
店主は一弥(いちや)、と名乗る、青春の隧道の出口にさしかかり始めた年頃の若者だ。彼がいるのは、褪せた屋根瓦と葉擦れの音をときたま立てる竹林と常緑樹の防風林に囲まれた、築年数、ゆうに百年は超えた古風な商家。そして、その商家の凝縮された琥珀色の引き戸の上に吊られた藍暖簾こそ、「文箱預かり商」が営業中の証である。
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