こちらのアイテムは2019/10/12(土)開催・第9回 Text-Revolutions(中止)にて入手できます。
くわしくは第9回 Text-Revolutions(中止)公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

台風接近のため、開催は中止となりました。詳しくはText-Revolutions準備会のページをご参照ください。

紫灰の日時計・上

  • 委託-15 (恋愛)
  • しはいのひどけい・じょう
  • 二月ほづみ
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 1,200円
  • 2017/4/1(土)発行
  • 主従もの少女小説。

    カバー付き、ページ数は確定後追加いたします。

    2014~2014に発行した同作の挿絵付き新装版(上下巻に再編・加筆修正)となります。


    ★今回委託させて頂く予定の4冊のうち、どれかひとつ読んでみようかなと思って頂けるようでしたら、この本か「シュガードロップ・ブレイクアウト・上」のどちらかをおすすめいたします(^-^)



    (本文サンプル)


     序


    「殺してしまえ」

     無造作に放たれた言葉の意味を理解し、恐怖するには、三歳のエリン・カスタニエは幼すぎた。


     高い高い天井に、低い声の微かな残響が響く。傍らで頭(こうべ)を垂れる両親が息を呑む気配を感じ……何ともいえぬ嫌な予感に、思わず顔を上げる。玉座の男が目に入った。深い皺の刻まれた精悍な面立ち、厳しい声に、怒っているのかと思ったのだが、そうではないらしい。

     男──エウロ皇帝、アドルフ=サリム・アヴァロンは、あくまで無表情に少年を見下ろしていた。

     鏡のように磨かれた白大理石の床に、分厚い朱色の絨毯。円柱には優雅な彫刻が施され、頭上にはこの国の成り立ちについて語る、精緻な天井画が描かれている。今日のような公式の謁見に使われるアヴァロン城の大広間は、豪奢で古典的な様式美を見事に再現した、実に重厚な空間である。

     言葉もなく見上げた先で、目が合った。男の双眸は、老いてなお鮮やかなスミレ色。それは、エリンの左目と同じ色である。少年の視線を受けて、アドルフはどことなく優しげな声音で言った。

    「エリン、と、申したか。余の言葉が、まだ分からぬようだな。そなたの年では、無理からぬことであろうが」

    「皇帝陛下!」

     口を開こうとするエリンを遮って、右隣の母が悲鳴のような声を上げる。

    「息子はまだ幼く……それに、この後(のち)も陛下に盾突くような真似は決していたしません。ですから……」

    「命を助けよと?」

    「どうか……どうか……」

     優しい母が震えて泣いていた。それを見て、少年ははじめて、我が身に起ころうとするただならぬ出来事に思い至る。大人がする話の内容はよくは分からないが、それは母を泣かせるようなことなのだ。

    「はは、うえ……?」

     それはきっと、恐ろしいことだ。

     彼くらいの年の子供であれば、そのまま泣きだしてしまうのが当たり前のところであったが、その日、少年は涙を見せなかった。空色と紫、左右で色の異なる、子供らしく澄んだ瞳で、不思議そうに泣き崩れる母を見る。それから、自分を挟んで母と反対側に居る父をゆっくりと見る。父はひれ伏したまま微動だにせず、その表情を見ることはできなかった。

    「では、ここでその左目を潰すがいい」

    「陛下……!」

     この時、エリンはまだ知らなかった。

     幼い彼が、初めて皇帝への謁見を許された、本来ならば栄誉あるべきその席で、主君から死を望まれるという途方も無い不幸の理由が、自らが生まれ持ってしまった、特徴的な左目の『紫色』に起因することを。

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