【ハイファンタジー】兎変身綺譚 —明日の風に中世編外伝・九十九冒険譚—【連作短編】【西洋風】

• 委託-12 (ハイファンタジー)
• うさぎへんしんきたん あしたのかぜにちゅうせいへんがいでんつくもぼうけんたん
• 風城国子智
• 書籍|文庫判(A6)
• 68ページ
• 300円
• http://windingwind.hacca.jp/t…
• 2018/5/27(日)発行
• 西洋風ファンタジー『九十九冒険譚・明日の風に中世編外伝』より。
  トラブルメーカーな冒険者禎理（ていり）が、相棒の小さな魔物模糊（もこ）と同じ姿に変身する短編『兎変身綺譚』他、禎理と模糊の物語を中心とした連作短編集。
  
  ※『九十九冒険譚』についてはこちらから読めます。

  • 小説家になろう
  • アルファポリス

  
  
  禎理君が活躍（多分）している物語群『明日の風に・中世心火編＋九十九冒険譚＋追憶編』特設ページ。
  

  目次

  • 雨が降る前に
  • 小さな贈り物
  • 出会い、は
  • 指
  • 文字を教える
  • ある朝のこと
  • 匙と皿
  • 月明かりの夢
  • 心の炎
  • 氷嚢
  • 木の葉を落とすもの
  • あまくて、やわらかい、たべもの
  • 兎変身綺譚

  
  

  試し読み　月明かりの夢

  　月明かりに伸びる自身の影に、何度も目を瞬かせる。
  　この長く細い影は、小さな魔物、ダルマウサギ族である模糊（もこ）のものには見えない。どう見ても、模糊のご主人様である禎理（ていり）と同じ、人間の影。模糊自身の動きに合わせて踊る柔らかい影をまじまじと見つめてから、模糊は今度は自分自身の、人間になってしまった身体をまじまじと見つめた。
  　人間になってしまった模糊の手は、傍らで眠る禎理の手よりも少しだけ大きい。森の中にある小さな洞窟の、冷たい地面に投げ出された禎理の手に、自分の手を重ねてみる。禎理のその手を、地面に敷かれた毛布の上に乗せてから、模糊はその毛布の、小さく余った部分に何とか自分の身を横たえた。
  　昼間の疲れからか、ぐっすりと眠っている禎理の身体は、ダルマウサギの身体で禎理にくっついた時よりも少しだけ、冷たい。こんなに儚く見える存在なのに、無茶ばかりする。肩に見えた古い傷跡にそっと唇を這わせると、長くなった腕で、模糊は禎理をしっかりと抱き締めた。ダルマウサギ族の短い腕では、こんなことはできない。薬草に似た、柔らかな禎理の匂いを胸に閉じ込めて、緩やかに瞼を閉じる。禎理と、ずっと一緒にいられますように。僅かに開いた瞳に見えた、欠けた月に、模糊はそっと、祈った。