鉱石シリーズ第3弾《きらきら あります》
琥珀糖専門店ジオードの扉に、そう書かれた小さな黒板がかかると、営業中を意味する。
その看板をかけに店の外へと出てきたのは、ジオードの店主であり菓子職人である今市琥太郎だ。
鳥雲の間から陽光が差す。白青の空に浮かぶ雲はことのほか長閑で、
見上げた琥太郎の瞳を優しく染めた。どこからともなく、八重桜の花びらを乗せた風が琥太郎の髪を揺らす。
「ひさかたの光のどけき春の日に、でしょうか。」
春爛漫のうちにも散り急ぐ花を詠んだ歌が指すのは八重桜ではない。
それでも浮かんだのは、新年度が始まり何かと急ぎ足になる人が多い光景が目に入るからだ。
中略
ジオードが扱う琥珀糖は、寒天と砂糖を煮詰めて冷まし固め、
表面が結晶化するまで約一週間じっくりと乾かした半生菓子だ。
菓匠の多い京都では夏の風物詩として扱われ、決して珍しいものではないが、
ジオードの琥珀糖は琥珀よりも琥珀に近い、という点で一風変わっていた。
「さて、今日は何を並べましょうか、」
琥太郎は年間を通して四十ほどのレシピを持っているが、
店頭のショウケースに並べる琥珀糖は常時六種類と決めていた。
これまでは気ままに選んだ六種類を並べていたが、
最近は定番を五種、新作または季節限定品を一種、とすることが多い。
季節の旬を守る程度の節操はあるつもりだが、
人気がある限定品は定番商品に加えてしまう商魂も持ち合わせている。
例えば、昨秋に出した《藍晶石》がそうだ。
特に宮沢賢治愛読者からの評判がよく、口コミで広がると冬を過ぎても売上げが衰えず、
とうとう春になっても並べている。(冒頭抜粋)
★試し読み★
カクヨム
https://kakuyomu.jp/works/1177354054887959707★仕様★
2版(誤字訂正済み・栞は印刷に切り替え済み)……基本的にこちらの頒布
初版(73ページに1文字誤字あり・栞は手書き)……残り1冊/100円引きの700円
★その他★
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