陸の船乗りと少女と少年の聖夜「ヴィッセラーダは聖夜を祝う」。
時の流れから取り残された吸血鬼の「Smoke Gets In Your
Eyes」。
戦隊レッド+魔法少女「青春レッドとマジカル☆スプリング」。
ほのぼのボーイミーツガールファンタジー「魔女見習いの弟子」。
部活の先輩と後輩の放課後デート「より道」。
幕末風の異世界を舞台にしたシリアスファンタジー「花に星」。
サイト「雨の庭」や参加したネット企画に掲載している短編のうち、赤・暖色系のイメージがあるお話を集めた短編集。
掲載サイトのURLはこちら
http://pluie.halfmoon.jp/novel/【本文サンプル】
「いいか春馬」
白猫の苛立った声が春馬を回想から現実へ引き戻す。
「お前は戦隊ヒーローじゃなくて魔・法・少・女! それを忘れるな!」
春馬が幼い頃テレビで見た宇宙海賊な戦隊レッドに憧れていることを知っている白猫は、怒りマークの見えそうな勢いで念を押してきた。
「わかってるさ。だが魔法少女は世を忍ぶ仮の姿。俺の正体は青春レッドだ!」
ばっさーとコートの裾を翻してターン、両腕を組んでキメポーズ。実に良い気分だ。魔法少女に変身するようになってから、変身前の身体能力も上がってきている気がする。
スーツアクターを目指し続け、今では授業の合間にバイトもしている春馬の身体能力は、もともと同年代の男子と比べても高い方だが、今なら細いフェンスの上で大げさにポーズを決めても落ちる気がしない。
わかってないお前はちっともわかってない! そもそも忍んでない忍べよ忍んでくれよ正体は秘密だって何度も言ってるだろ! と嘆く白猫の首根っこをひっつかんで、春馬は屋上の入り口に目を向けた。
「青春レッドとマジカル☆スプリング」より一部抜粋
夜の訪れと共に花街の風景は一変する。昼間はうらぶれて見えた街路は、いくつものぼんぼりや軒先の提灯の明かりに照らされ、街路樹の紅葉や朱塗りの門柱は色鮮やかに闇に浮かび上がる。道を歩く遊び人と彼らに呼びかける遊女たち。人々の動きに合わせて翻る、色とりどりの着物の端。不安定な炎に揺れる影。
紅く妖しく照り輝くその花街の一角で、シャナは衝立の影に座って、艶めいた男女の声を聞いていた。
「なあ、ライカ。お前も一緒に行かないか?」
肌を滑る衣擦れの音と、低くかすれた男の声が、同時にシャナの耳に届く。
「馬鹿なことをお言いでないよ」
いつもこっそりと余った食事や端布を分けてくれる遊女のライカの声は、言葉とは裏腹に艶やかで優しげだ。
「花街には花街の掟がある。あんたにだってわかってるはずだろう?」
ライカは小さくため息をつき、諭すような調子を打ち切った。
「しかし、わからないね。魔術師って子供は作れないんだろ? 女にも興味がないのかと思ってたよ」
男に囁きかける声は、笑みを含んで先程までよりも一層艶やかだ。
「花に星」より一部抜粋