こちらのアイテムは2018/7/16(月)開催・第7回 Text-Revolutionsにて入手できます。
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モラトリアム・タイムスリップ

  • D-18 (ローファンタジー)
  • もらとりあむたいむすりっぷ
  • 志水了
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 88ページ
  • 500円
  • http://autumnwater.org/morato…
  • 2018/3/25(日)発行
  • ――折竹は、天才だから。

    建築デザイン科で建築を学んでいる今間は、研究室のゼミの課題で、とある男と共同で研究を行うことになる。
    とある男、折竹は建築デザイン科でも突出した才能の持ち主だった。
    天才、だけど生活力皆無な彼と日々を過ごしていくなかで、彼の才能にコンプレックスを抱く今間は彼のことが気になり、いつものように振る舞えない焦りが積み重なっていく。
    そのとき、二人は突然とある時代に飛ばされて――。
    互いの才能に悩む学生たちの、現代短編。

    以下、冒頭抜粋です。

    一、

    「嫌です」
    「即答だねっ?」
     研究室に、今間のよくとおる声が響いた。
     今間知記は、自身が所属している守岡研究室の教授の前に立っていた。研究室の主、守岡教授は、パソコンのデュアルディスプレイの向こう側で困ったように眉をひそめている。
    「そりゃあ、誰だって断りますよ。折竹みたいな天才のくせに生活能力皆無なやつと組んだら身がもたないです」
    「それ、ほめてるのかけなしてるのかどっちかな……」
     今間が反対すると、横から、頼りない声が聞こえてきた。ちらりと視線を向けると、作業用の大きな机の片隅、突っ伏すようにして座り込んでいる男の姿がある。突っ伏しているので、今間からはさらさらと嘆くたびに揺れる黒髪しか見えない。
     男、折竹章吾は、研究室の壁にある本棚の本をテーブルに広げているようだった。今間の言葉にショックを受けたのか、手にしていたらしいシャープペンシルが机に転がっている。
    「ほめてる」
    「即答だね?」
     今間の言葉に、折竹はがくりと首を落とした。そのまま起きない姿にいささかのあわれみが浮かぶが、嫌なものは嫌なのだ。仕方がない。
    「まあ、今間の気持ちもわかるがな。今日も就活帰りであることも、就活で忙しいことも知っているし。だが残念なことに……君の相手はもう折竹しかいないんだよ……」
    「ええええええ」
    「という訳で、よろしくね!」
     教授はにっこりと笑みを浮かべながら、今間に用紙を押しつけてきた。そしてそのまま立ち上がると、これから六限だからと颯爽と断りをつけ、部屋を出ていってしまう。
     あとに残されたのは、プリントを手にした今間と、うなだれたままの折竹だけだ。
     研究室は教室の三分の一ほどの狭さで、壁は一面の本で埋められている。折竹がうなだれているテーブルは八人ほど座れるだろうか。木工用の作業を行うための無骨なテーブルは、四年生の作った模型が真ん中に置かれていた。そしてテーブルの端には、誰かが持ってきたらしい炊飯器が置かれている。炊飯器には、疲れた今間の顔が映り込んでいた。遊び人と評される甘い目元も、くたびれているようだ。柔らかな髪は、就職活動のため、かっちりと固められている。
     折竹はうなだれたまま、ぴくりとも動かない。沈黙がなんとも気まずかった。
     だが沈黙を作ったのは今間であった。ここは今間がなんとかするしかないだろう。今間は折竹の向かいに腰掛ける。テーブルに広げられていた本を引き寄せていた。
    「何……近代建築について?」
    「そう。次のゼミから、各自復元された、もしくはリノベーションされた建築について調べたうえ、もし自分たちがリノベーションするならを考えてこいっていう課題だから……明治、大正あたりの近代建築から攻めてみたらどうかなと思って」
    「ふぅん……」
     リノベーション――既存の建物に大規模な改修を行い、今よりも良いものにする。また刷新してより良い建物にしたりすることだ。守岡研究室では、リノベーションや復元を主とした研究を行っている。
     今間が引き寄せた本は、有名な建築家のもので、近代建築の授業では教科書として使われることも多いものだ。守岡研究室では近代建築について学ぶことも多く、中身はそれとなく頭にはいっている。
    「なんか、意外だな」
    「意外?」
     今間は、本を閉じた。テーブルのうえに広げている本のとなりに、そっと戻す。
    「復元、リノベーションだったら時代は問わないんだろ?」
    「うん」
    「折竹だったら、もっと最近のものをやると思ってた。ほら、あのリゾートホテルとか?」
     脳裏に、京都でオープンしたばかりの、有名なリゾートホテルを運営する会社が手がけたホテルが思い浮かぶ。
     折竹の作るものや嗜好からすると、もっと最先端のデザインを追いかける気がしてならないのだ。
     折竹は、天才だから。

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