こちらのアイテムは2018/7/16(月)開催・第7回 Text-Revolutionsにて入手できます。
くわしくは第7回 Text-Revolutions公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

拝み屋の日々

  • 委託-26 (伝奇・オカルト・ホラー・猟奇)
  • おがみやのひび
  • 歌峰由子
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 20ページ
  • 100円
  • https://twitter.com/Night_Tea…
  • 2018/7/16(月)発行
  • 【新刊・青色申告マップ参加】【下部に試読あり】

    巴市の日々スピンオフ掌編。本編主人公・美郷の相棒となる金髪グラサンのチンピラ山伏・狩野怜路(かりのりょうじ)が主役。

    元は東京在住ながら、「実家」のある巴市に越してきた怜路。彼の職はいわゆる「拝み屋」だ。

    学はないしやる気も大してない。だが世間の荒波に揉まれてきたので契約書の作り方は知っている。

    ヤンチャな格好で尊大な態度をとる割に、お人好し。

    そんな「怜ちゃん」を主人公にした、巴市の日々前日譚です。巴市本編を読まなくても問題なく読めるお話ですので宜しくお願いします!(ちなみに本編はコチラで読めます)



    【冒頭部試読】


     狩野怜路は個人営業の事業主である。
     ただし、探偵でも骨董屋でもなければ、殺し屋でもない。
     

     ただの「拝み屋」である。


    「オン キリキリ バザラ ウン ハッタ!」
     印を組んで結界し、部屋と外界を切り分ける。古くさい和室一間のアパートには、一畳ほどの押入れが付いていた。黒い枠に茶色く焼けた襖紙の、半端に開いたその襖の奥から、どろりと何かが流れ出している。
     タールのような粘液は、同じく焼けてささくれた畳の上を這って部屋に広がっていく。同時に、怜路に悪臭が押し寄せた。
     哺乳類の、臓腑が腐った臭いだ。
     水中動物のそれとは一味違う腐敗臭。理性や表面的な感情よりも、もっと奥を抉る嫌悪感は、正しく生存のために鳴らされる警鐘である。
    「臨兵闘者皆陣烈在前――」
     人差し指と中指と立てた刀印を抜き、五横四縦の九字を切る。腐臭を放つタールが消し飛ばされ、結界の中が清められた。しかし、タールの発生源であった押入れの中に、強烈な邪気が残っている。右手の刀印を結んだまま、土足の怜路は押入れの前に立った。色の薄く入ったサングラスを外し、静かに襖に左手を掛ける。ハイカットのバスケットシューズが、ざり、と畳に土を擦り付けた。
     勢いよく襖を引いた。薄暗い押入れの上段奥に、より一層の闇がたぐまっている。ぶわりと音を立てる勢いで、闇が怜路に触手を伸ばした。刀印でそれを切り払う。
     緑銀の双眸がきらりと光った。にやりと怜路は口の端を上げる。
    「ナウマク サンマンダボダナン インダラヤ ソワカ」
     パーカーのポケットから独鈷杵を取り出し、闇の奥めがけて打ち込んだ。
     紫電の光が迸り、闇が全て灼き払われる。その奥にあったのは、布に包まれた一メートルほどの棒だ。躊躇なく怜路はそれを掴む。カチャカチャと金属が小刻みに暴れる音が、布の奥からし始めた。鍔鳴りだ。
     同時に、男とも女ともつかぬ金切り声が怜路の握る棒――日本刀から響く。眼前に陽炎が立ち昇り、人の形をとって怜路に襲いかかった。
    「――砕」
     日本刀の両端を掴み、鋭く膝を上げる。めきっ、と鈍い音をたてて、日本刀が真っ二つにへし折れた。声ならぬ断末魔が響く。
    「おし、完了」
     布に包まったまま、くの字に折れた日本刀をぽいと床に放って怜路はサングラスを掛けなおす。金色になるまで脱色した髪を手櫛で整えると、耳元でシルバーピアスが揺れた。押入れの奥から独鈷杵を拾い、パーカーのポケットに再び突っ込む。
     あの日本刀の所有者は怜路ではない。どんな謂れの、どんな値打ちの刀かも知らない。ついでに言えば、何の事情であんなものが憑いたのかも興味はない。
     なぜなら怜路は、探偵でも骨董屋でもなければ、殺し屋でもない。
     ただの「拝み屋」だからだ。



    「おお、怜ちゃんお疲れお疲れ」
     みみっちい駅前通りに建つ、三階程度の小さなビル。その一階にある不動産屋のガラスドアを怜路は押し開けた。奥のデスクに座っていた、頭頂の寂しい男が気安く手を振る。
    「うぃっす」と軽く手を挙げ、怜路は勝手知ったる様子でカウンター端の椅子に陣取った。奥から出てきた男が、改めて怜路をねぎらう。
    「さすが怜ちゃんは仕事が早ァのぉ」
    「どーも。元凶だったモンは部屋に置いて来ちまったぜ。何か怨念吸った日本刀だったが……へし折っちまったから値打ちはもうねーだろうけど」
     椅子の背もたれに片肘を置き、大股を開いた横柄な姿勢で怜路は不動産屋の男に答えた。ツンツンとワックスで立てた金髪に、薄く色の入ったサングラス。大きくロゴの入ったスウェットパーカーと腰穿きのカーゴパンツといういで立ちで、二十代前半の男が偉そうにしている様は、傍からはヤクザの下っ端が絡みに来ているようにしか見えないだろう。
    「あー、やっぱりアレじゃったんか……高いエエ刀じゃゆうて聞いとったんじゃがのぉ」
    「あんだけデロデロに汚れてりゃ高いも安いもねーよ。部屋の方にもだいぶ穢れが付いちまってたし、畳と襖くらいは換えた方がいいぜ。あとはクリーニングして、神主にでも来てもらってくれ」
     拝み屋・狩野怜路が今回請け負ったのは、数年前事故物件となって以来、トラブル続きで住人の居付かないアパートの処理だ。原因となっていたのは、事故物件となった部屋――つまり、数年前に人死が出た部屋の押し入れにあった、古い日本刀だった。
     お値段格安、風呂トイレが各部屋に付いていることに驚くレベルの「ザ・安アパート」に高額な日本刀がある時点で、それまでのなり行きに面倒事があったのは察しがつく。だが、祓いをするのに必要な情報さえ揃えば、怜路は詳細に興味などない。


    こんなノリで、アクション寄りのホラー・オカルトものです。

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