冷え症の高一、悠真は美しい三年生・小鳥遊のモデルになる。
冷えた手を暖められるうちに意識するようになるが、ある日小鳥遊の夢を見てしまい、自己嫌悪に陥り…!?
・美形先輩×冷え症ウブ後輩。
・公式アンソロ「嘘」に、後日談「隠しごと」(--Link--)を掲載して頂きました。
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■お試し読み■
「ありがとう、悠真。終わったよ」
悠真は立てていた膝を机から落とし、床に降りた。同じポーズを取るのに慣れて来たが、自由になると体のあちこちが軋む。少し腕を伸ばして屈伸運動をしていると、小鳥遊が「冷えたんじゃないのか?」と言って手を包んでさすってくれる。しばらくそうしていたが、ふいに手を頬に持っていかれた。すり……と顎から頬骨のあたりまで悠真の掌をふれさせる。
「……せ、先輩? も、もう大分暖まりましたけど」
ドキリと心臓が音を立てる。ほんの少しだけ伸びた髭がちりっとあたり、小鳥遊は美しいけれどちゃんと男なのだと思った。
「まだ冷たいよ。僕の顔の方がぬくいくらいだ」
「あの、でも……っ」
かっと顔が熱くなる。今まで頬で暖められたことなどなかったので戸惑ってしまう。
小鳥遊の目に、悠真は今までと同じに見えているのだろう。昨日の晩、小鳥遊の夢を見て夢精してしまったと知ったら、どんな顔をするだろう。おそらく「悠真がこんなにいやらしい後輩だと思っていなかった」と言って軽蔑するに違いない。
小鳥遊の薄い色の瞳に、悠真は映らなくなる。きっとモデルもしなくていいと言われて、話すことも出来なくなるだろう。
(それだけは嫌だ。今まで通りに接してほしい)
だから、小鳥遊の前では大人しい後輩のままでいた方が、きっといいはずだ。軽蔑されるよりも、今まで通りの方がいい。小鳥遊への気持ちを気付かれないようにしないといけない――。そんな考えがぐるぐると頭の中で渦まく。
小鳥遊の声が聞こえてきて、急に現実に引き戻された。
「今度の夏休みに合宿があるけど、僕も記念で参加しようかと思っている。暑いけど熱海の温泉にでも行こうって提案してみようか。温泉に入ると血行がよくなるから」
「う……」
じわっと涙が出てきた。
(俺はそんな優しい言葉をかけてもらえるような人間じゃないんです。先輩が親切に言ってくれているのに変な夢を見て、顔さえまともに見られない)
その証拠にさっき頬に手をあてられてから下半身がじわじわして、股間が反応しはじめている。
(い、今だって半勃ちなのに……!)
小鳥遊と温泉になど行ったりしたら、裸を見られる。前を隠し続けられればいいが、手ぬぐい一枚なんて心もとない。それに完全に勃起してしまったら、手ぬぐいをかけてもばれてしまうだろう。そんな姿を見られたら、きっと呆れられ、苦笑される。男同士で風呂に入っているだけなのに欲情しているなんて普通ではないと、いぶかしまれてしまう。
そうしたらもう、今まで通りに小鳥遊と付き合うことが出来なくなってしまう。
それは嫌だ。小鳥遊と一緒にいたい。このままの関係を維持して、先輩と後輩の関係を続けられたらそれでいい。
「赤い顔してる。悠真、どうしたの?」
座ったままの小鳥遊に顔を覗き込まれ、悠真は心の中を見透かされた気になった。
「だめです。俺、先輩と風呂なんて、絶対行けない……っ」
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