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審神者と刀の本丸ライフ

  • A-25 (ファンタジー)
  • さにわとかたなのほんまるらいふ
  • 暁 湊
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 68ページ
  • 500円
  • http://www.pixiv.net/novel/sh…
  • 2015/5/5(火)発行
  • 【刀剣乱舞二次創作】【主(男審神者)中心オールキャラ】
    男審神者が運営する本丸の刀剣男士達とのほのぼの生活の短編集。
    ・燭台切光忠を呼び出す。
    ・月夜に同田貫正国を見つける。
    ・山伏国広に山をねだられる。
    ・陸奥守吉行に泣かれる。
    の4本を収録。
    カバー下も覗いてもらえると嬉しいです。


    以下、サンプルです。

     深い闇の中に、男はいた。
      ガシャン、と遠くで何かが割れる音がする。ごとり、と何かが倒れる音も続いた。それが幾度も折り重なり、積み重なり、彼の耳を押し潰す。合間に、ごうごうと燃える炎がゆっくりと近づいてくる。じわじわと床を、天井を、視界を覆い尽くす赤。舐めるように、いたぶる様に迫ってくる炎に、男は身を任せる。
      いつも同じ闇の中で、繰り返しあの日の出来事を繰り返す。足掻く術を、自分は持たないのだから。
     するりと触れられたところが熱を持つ。それは瞬時に痛みへと変わり、彼を飲み込む。あぁ、いつもそうだと、彼はため息をつく。その息すら熱く、喉が焼けるようだ。
      喉が、焼ける?
      そこまで感じて、男は慌てて周りを見渡す。周囲を見るための目が、視点を変えるための顔が、首が付いていることに気づく。なんだこれはと、そこに触れたいと思えば、それに応える腕と手があった。ならばと、視界を下に動かせは胴体と二本の足が見えた。それは、まさしく己の身体である。
     「……っ」
      弾かれるように男は立ち上がり、目の前に迫る炎から逃れるべく踵を返す。だが、周囲は既に炎の海。逃げる場所など、どこにもなかった。
      また今回も同じなのか。せっかく、動くための身体があるというのに、終わりはいつも同じなのかと男は先の見えない暗闇の果てを睨む。赤に染められることなく、黒を保つそこが、今回限ってはきらりと光った。小さな、小さな光は炎にあおられてもなおそこに在り、まるで男を待っているかのように明滅する。
      こんなこと、今までなかった。
      何度も、それも数えきれないほど、永遠に近い時間をこの空間で過ごしていた男にとって、僅かな変化は希望だった。この悪夢を繰り返す空間から逃れることができるのであれば、どこだっていい。ここで独り、死を数えることを止めることができるのならば、どこだって。
      初めて、男は己の足で立ち上がり、膝を曲げて跳ぶ。できる限り遠くへ、光に届くように手を伸ばす。手を伸ばされるのを待っていたかのように、小さな光はくるりと円を描いた後、吸い寄せられるように男の手のひらに飛び込んできた。
      途端、視界が白に変わる。
      先ほどまで己を苛んでいた熱が、痛みが、嘘のように消え去った。急に明るくなった空間で立ち往生している男の後ろから、声がかけられた。
     「お前の名前を教えてくれないか?」
      暖かい、穏やかな声だ。
      誰の声だろうかと、男が振り向くと同時に視界が再び暗転した。自分は呼ばれているのだと、男は本能に近い何かで悟った。ゆるりと目を閉じて、引き寄せられる感覚に身を委ねる。そこに、恐怖はなかった。
      しばらく落下している感覚があったが、直にそれが終わり、訳も分からずついた両足にぐっと重みがかかる。あぁ、これが自分の足で立つということか。自分の置かれている状況が全く分からないまま、男は己を包む空気が変わったことに気づいて、恐る恐る瞼を持ち上げる。
      木目の床に、天井が見える。次いで、鉄の匂いが鼻を抜ける。そこでようやく、自分の目の前に立っている、自分以外の誰かがいることに気づいた。黒い短髪の男だ。彼は男の前に正座をし、膝の上に乗せた鞘に収まった刀を大切そうに握っていた。見上げる視線と己のそれが交わると、彼はふわりと笑って口を開いた。
    「名前を、教えてくれないか?」
     それは、先ほど聞いたものと同じ声だった。反射的に、男は口を開く。
     「僕は、燭台切光忠」
     「燭台切光忠、ね」
    「あぁ。僕の持ち主だった伊達政宗公が部下と一緒に燭台も斬れたからってこの名前が付いたんだ」
    「なるほど。納得した」
     「それで、えっと、君は?」
      燭台切の言葉に、正座をしていた男は背筋を正し、静かに頭を垂れる。
     「俺は審神者。付喪神を呼び、この地におろす者だ」
    「何のために?」
     「歴史を、正しく導くために」
      審神者曰く、今の世の中には過去に介入する術があり、それを悪しき者が利用して歴史を捻じ曲げようとしている。小さなものであれば目を瞑ることもできたが、世の流れを根本から覆す、それこそ国一つ失くすことすら可能とする介入を、無視することはできなくなった。そこで、時の政府は付喪神の力を扱える者を集め、神を使役し戦うことを決めたのだ。
     「つまり、戦うために僕は呼ばれたってこと?」
    「あぁ。俺が戦いたいのは山々なんだが、限界があってな。人間だけでは手に負えない部分が出てきているから、お前の力を借りたい」
     「なるほど、大体は理解したよ。これも何かも縁だし、よろしく頼むよ」
     「ありがとう、感謝する」
      そう言って、審神者はようやく頭を上げ、立ち上がる。そして、手にしていた刀を光忠に差し出した。それを、燭台切はそっと受け取る。自分を別の視点から見るというのは、なんとも不思議な感覚だった。以前は振るわれていた自身を、今度は自ら抜くことになろうとは。
     「よし、じゃぁここの案内をしよう。他にもお前と同じように力を貸してくれる付喪神がいるんだ」
     「その、扉の向こうにいる彼みたいに?」
     「なんだ、気づいてたのか。陸奥、入ってきていいぞ」
      審神者の呼びかけに、部屋の外にあった気配が動き、部屋に近づいてくる。がらり、と扉が開けられ、ひょっこりと顔を出した男は、人懐っこい笑みを浮かべていた。
     「新入りがどかな刀かづつのうて仕方がなかったき、許してくれんか?」
     「別に怒ってないさ。どの道案内は一緒にするつもりだったし。それより、自己紹介」
     「おお、そうじゃった。わしは陸奥守吉行じゃ。よろしゅう頼むぜよ」
     「聞こえていたかもしれないけど、僕は燭台切光忠だ。こちらこそ、よろしく」
      差し出された手を燭台切はしっかりと握り返し、笑みを浮かべる。握った手は、握り返した手は、とても暖かかった。

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