表紙・人物紹介画 高井玖実子(タカイクミコ)
そ奴ひとりに死んでもらって、
貴様らは当座の命を贖うか?
それとも、
仲間の誼で一緒に死んでやるか?
ひとつ目バドマ一族を封印する
術を求めていたシフォロン達は、遂に“
金色の女神”と邂逅した。光の神々の助力を得ながらバドマ一族の潜む火山島へ乗り込んだ一行の前に、だが、思わぬ“敵”が立ち塞がる。苦しみながらも全ての“敵”を退け、バドマの許へ乗り込んだ彼らを待ち受けていたのは、究極の二者択一を迫る“贈り物”であった……!
1990年に株式会社アスキー(当時)から発売されたMSXコンピュータRPGコンストラクションツール「Dante」に収録されていたサンプルゲーム『BADOMA 血塗られた伝説』のノベライズ作品、最終巻となる第5巻。
元ゲームを御存じない方でも、普通に“何か「剣と魔法」のファンタジーっぽい”作品として読むことが可能。
全巻完結しました。 既刊情報等は、こちらの
概要アイテムを御参照ください。
=== 以下抜粋===
タンジェの滞在する部屋の扉には、鍵が掛かっていなかった。
叩いても返事がないことを訝って押し開けてみた扉の向こうには、灯火どころか、人の気配すらない。
月は、西に傾き始めている。
(……こんな時間に、まだ外出してるのかなあ……?)
裡に独りごちたクニンガンは、何となく立ち去り難く、部屋に足を踏み入れてみた。辺りを見回す。目立った荷物はなく、ただ、魔道書らしき本が一冊、ぽんと寝台の上に放置されているだけ。表紙を覗き込んでみたが、当然の如く、何と書かれているかはわからない。触ってみた寝台も冷え切っていて、タンジェが休んでいた形跡がない。
(……出直そうかな)
そう思いながら、クニンガンは、部屋を出ようとした。
──その瞬間だった。
不意に、室内の空気が大きく
歪み、微風と言うには僅かに強い風が巻き起こった。
咄嗟に振り返ったクニンガンの目の前で、部屋の中央に黒い影が出現し、人の形を取る。──翼持つ三日月に飾られた杖を掲げた、丈高い黒魔道師。
と見た時にはもう、その姿は
床に崩れ落ちていた。
「──タンジェ!」
クニンガンは慌てて駆け寄った。殆ど
気死しているように見えたタンジェであったが、クニンガンの声に意識を引き戻されたか、どうにか顔を上げる。
憔悴し切った表情の中で黒い瞳だけが異様な輝きを帯びて、助け起こそうとするクニンガンを見据える。
「呼ぶな」
掠れ果てた声が、それでも鋭く発せられる。
「誰も呼ぶな」
「で、でも」
クニンガンは
困惑気味にタンジェの姿を見直した。魔道師のケープも黒いマントも、その下の黒いローブも泥に
塗れ、
生地自体がかなりのダメージを受けている状態であることは
一瞥で知れる。頭に巻かれたターバンも、元の色が白であることが疑わしくなるほど泥に……いや、よくよく見れば、その白を汚しているのは
赤錆びた血ではないか。
「──
怪我してるの!?」
「傷は……残ってない……疲れてるだけだ、休めば治る」
低く応じて身を引き摺り起こそうとするも、消耗が
酷いのか、またずるずると
床に突っ伏す。そんな有様でありながらも頑なに「誰も呼ぶな」と
繰り返し呻き続けるタンジェに、クニンガンは仕方なく「誰も呼びに行ったりしないから、心配しないで」と返した。
「でも、泥を
拭く布を取りに行ってきてもいい? 汚れを拭いて着替えておかないと、
明日の朝が早いのに大変だよ。……誰にも見付からないように気を付けるから」
タンジェは、ごく僅かに
安堵したような色をその目許に浮かべ、黙って頷いた。
───「第十七章 決戦への誘い」より