小学校が一緒だった映子と美子。
美子は4年生の時、突然喋れなくなり、二人は卒業し別れる。
一方、世界の狭間で図書に囲まれて過ごしていた犠牲羊は運命の時が来たことを知り、人間の世界に繰り出す。
映子と美子が出会い、美子と犠牲羊が出会い、一人一人の過ごす時を、にやにや笑って観ている奴らがいる。
彼女彼らを主軸にしながら巻き起こる事件、システムエラー、犯罪、共時共同幻想による陰謀――。
みんなみんな、予想の枠外へ放り出されてしまう物語。
(Amazon Kindle版、無料カテゴリ――小説・文芸部門68位。※現在は有料配信しております)
(本文抜粋)
<紅葉のあらゆる葉は彼女のダンスに合わせて沈もうとしている。彼女はあたしを見ていない。あたしは紅潮する、頬が熱くなるのをしっかりと感じている。あたしは何故、記憶の隅に追いやっていたのだろう。彼女はあの時から、あんなに美しかったのに。
彼女の動きは大胆さを膨張させて、終焉する。両脚を大きく開き、両腕は胸でクロスされて、顔は赤児を見下ろす母のような慈しみを湛えて俯いている。
女の子は次第に身体を弛緩させて、木の枝に引っ掛けた橙色のタオルで汗を拭う。そして、こちらを見る。あたしと目が合う。あたしは紅潮する。頬だけでなく、顔が真っ赤になる。女の子は喋らない。あたしは喋る。あたしはあたしの声で雑響を消しているから。あたしは大きく息を吸う。冷たい空気だ。あたしは声に出す。
「美子ちゃん!」
あたしは恋をする。
あたしたちはまた出会う。>