「なー」
「んー」
「あのしっちゃかめっちゃかな飛び方してる戦闘機、誰だよ」
「…総裁殿下様だ」
「なんか命がすげえもったいなくなってきたぞ、俺」
「そうだろうなあ…安心しろよ、副官殿が立派だから」
「ああ、そう…」
宇宙空間でそんな会話をジルベスタとかわす。そうしながらも、彼の操縦技術は的確だった。
「おまえさんはエースになれるかもな」
「そっかなー」
自覚のネジが一本抜けていると後々評されるだけあって、実にのほほんとマイペースだ。
「ディッコン」
「んー」
「戻るぞ」
「了解」
戦艦に着艦するのも自動ではなく手動で行っても、彼の操る機体は難なく発着場に滑り下りることが出来ていた。
「なるほどね…」
いい感覚だ。直観力も鋭いし、洞察力もある。眼力もある。騎士として一流になるはずの能力だが、彼は指物師だという。愛称・ディッコン。本名はなぜかあまり名乗りたがらなかった。
「どうだ、宇宙ってのは」
「ある意味怖いな」
「怖いってわかってるからこそ、相応しいんだよな」
「ん、それ何」
「怖さを知らないってのは問題なんだよ」
訓練生専門の戦艦の廊下をパイロットスーツのまま、歩く。遠くに総裁とその副官が歩いていくのが見えた。
「ありゃ、殿下は副官殿にくどくど叱られているだろうな」
「みたいだな」
どこかしょげて見える総裁。
「殿下、か」
「最初は閣下だったんだけどね、みんな殿下って呼ぶようになってた」
「本人はどうなんだ」
「ああ、かまわないらしいよ」
「ふうん…」
彼はその称号に特に関心がなさそうに見えた。
「王家のお歴々、か」
そう溜息をついて口にすると、ジルベスタは笑っていた。
「そういえば、おまえ」
「本名はね、そうだよ」
プランタジネットの苗字を使っている。ここで使えると知って遠慮なく使っている状態だ。十六世紀では使わず、何回も名前を変えて過ごしてきた。
「ここなら使えるから」
「誰の子なんだよ、エドワード四世とか」
「さてね」
それは言わない。もっと親しくなったら、あるいは…。そう彼は思っていた。
「まあ、それは前の事だし、かまわないけどな」
ジルベスタはそう言った。それに安堵している彼をジルベスタは目を細めて見ていた。
「おまえ…プランタジネット狩りから逃げていたのか」
「まあ、そうだね。ヘンリー七世はマシだった。その息子は、ありゃはっきり言って頭おかしいぜ、狂ってやがるよ」