『こうして勇者は魔王を倒し、世界に平和が訪れたのでした――』
ゆったりとした朗読の声が消えて、それから少しの間をおいて、まばらな拍手がいくつか起きた。
毛足の長い赤い絨毯の上に、耳の尖った少女が座っている。膝には一冊の絵本が置かれていた。内容は勇者が魔王を倒すというよくある物語だ。ありふれすぎて、逆になかなか見つけないような内容とも言えた。
座る少女の周りにはうず高く本が積まれている。
どれもこれも高度な専門書のようで、その場にいる四人の少女がどんなに読んだところで内容は到底理解できないだろう。
床に座る耳の尖った少女――カーラ・アルバストがようやく絵本を閉じる。裏表紙には黒い狼と勇者らしき人間の絵が描かれていた。
カーラがそれをなんとなしに積み上げられた専門書の上に置く。五冊組の椅子に出来そうなくらい分厚い専門書の上に、薄っぺらい絵本が乗っかっているのは実に滑稽だった。
―おじこんようじょのほん3より抜粋―