こちらのアイテムは2016/10/8(土)開催・第4回 Text-Revolutionsにて入手できます。
くわしくは第4回 Text-Revolutions公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

【代行非対象】【悪女小説フェア専用】歪んだ糸の物語

  • B-11〜12 (ファンタジー)
  • ゆがんだいとのものがたり
  • 野間みつね
  • その他
  • 24ページ
  • https://plag.me/p/textrevo04/…
  • 2012/7/14(土)発行

  • 私の屋敷には縁続きの子がふたり居るのよ。


     架空世界の歴史群像劇『ミディアミルド物語』の主人公その2であるケーデル・フェグラム。十九歳でマーナに仕官することになる彼を、その直前に至るまで歪んだ糸で搦め捕り、鉄鎖で縛り続けた女が居た──。
     彼らの歪んだ過去を知る史家ユリアン・カーリヒが、静かに語り始める。

     こちらは『ミディアミルド物語外伝集』第四集『将軍と呼ばれる迄に』から、「悪女小説フェア」参加作品である「歪んだ糸の物語」のみを切り出して抜粋を紹介するアイテムです。なので、これだけをお買い求めいただくことは不可能です(汗)。悪しからず御了承ください。

     === 以下抜粋 ===

    「おひと間違いではありませんか、御婦人?」
     やがて静かに返ってきた答に、エレラはふっと目を細めた。
    「そうかしら?」
    「ええ、失礼ながら、何やら私を知りびと勘違かんちがいなさっておいでの御様子です」
    年齢としに似合わず、したたかな子だこと)
     あの人[#「あの人」に傍点]のように──エレラはうちつぶやくと、笑みを浮かべた。
    「そうかしら。勘違いではなく、私は、あなたを知っていてよ」
    「私は存じ上げておりません」
     少年は落ち着き払っているように見えた。
    「それどころか、お目に掛かったこともございません」
    「私も」
     エレラはふくむような笑みで応じた。
    「今日まであなたに会ったことはないわ。でも、あなたを知っているの」
    「……」
     少年はその碧眼へきがんを用心深そうに細めた。彼女の言い回しをぎんしているようだ。
     そこへ、店の主が、席をひとり替えてしまった彼女のもとへ、心持ち冷たくしたメリアしゅ銀杯ぎんぱいいで運んできた。彼女は鷹揚おうような仕草でそれを受け取ると、主に百リンきんを一枚手渡した。そして、ゆっくりと、銀杯に口を付けた。
    「……あなた、今、いくつ?」
     このといに、少年は一層いっそう目を細めた。
    「……答える義務があるのですか」
    「ふふ、答えたくないのね。では当ててあげましょう。十五でしょう。そして来月らいげつだいじゅうげつの十九の日には、十六さいになるの」
     今度こそ、少年はハッキリとした動揺の色をその色白のほおに上らせた。エレラはような笑みを刻むと、木杯のそばにある少年の左手の上に、自分の右手をそっと重ねた。
    「違うかしら?」
    「……いえ」
     少年の声が、掠れた。手を引こうとする。エレラは許さなかった。きゅっと力を込めて、その、男にしておくには少しく勿体もったいないほどに繊細せんさいゆびを引きめる。少年は頬を引き攣らせた。
     そこへ今度は、置き去りにした従者が歩み寄ってきた。やや控え目に、低い声を掛けてくる。
    「エレラ様、お二階の支度が出来たと──手配の方は如何いかがなさいます」
    「必要なくなったわ」
     エレラは微笑んだ。
    「この子が、来てくれるから。──そうでしょう、ケーデル?」
     途端、少年は顔色を変えて彼女の手を振り払い、恐ろしい勢いで立ち上がった。木杯がはずみで倒れ、中にはいっていた透明とうめいな液体がたくじょうこぼれた。
    「私のしきには縁続えんつづきの子がふたりるのよ」
     エレラ・ティアが狙い澄ましてはなった台詞は、そのまま走り出そうとしていた少年の足をあざやかにち抜いた。少年はその場でこおり付いて、一歩も先へ進めなくなった。エレラはゆっくりと腰を上げると、そんな少年の後ろにゆうに歩み寄り、その両肩にそっと手を掛けた。手の下で、ほねった肩先が小さく震えた。

         ───「歪んだ糸の物語/クデン暦クルシャ九年初秋第十月、アベリア」より

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