こちらのアイテムは2016/10/8(土)開催・第4回 Text-Revolutionsにて入手できます。
くわしくは第4回 Text-Revolutions公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

のびざかり闘争

  • C-13 (ファンタジー)
  • のびざかりとうそう
  • 藍間真珠
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 84ページ
  • 500円
  • http://indigo.opal.ne.jp/
  • 2014/8/31(日)発行
  • 【残部僅少作品頒布応援企画「ゴブガリ」(5部狩り)参加作品】
    「ナミアはついてくるなよ。オレはバッキオのところに行くから」
    ある日突き付けられた拒絶の言葉に、ナミアは動揺し思い悩む。その発端には技使いグループの分裂騒動が関わっていて……。
    少女たちのささやかな成長物語。ライトな異世界ファンタジー。

    後日サイト掲載予定 同世界観作品あり 残部僅少
    表紙イラスト:トガシさん

    試し読み http://books.doncha.net/happy-reading/detail.pl?uid=113335991&bookid=613

    レビュー
    http://text-revolutions.com/event/archives/3024



    「ナミアはついてくるなよ。オレはバッキオのところに行くから」
     一歩ナミアが足を踏み出すと、ケーヒスは不機嫌そうに振り向いた。道の真ん中で硬直した彼女は、眼を見開き彼の顔を見つめる。
     見慣れた栗色の瞳は細められ、口元は微妙に引き攣っていた。普段とは違う。何より彼の『気』から苛立ちが読み取れる。こんなことは今までなかった。
    「ケー……ヒス君」
    「だからついてくるなって。お前はリンたちと一緒に遊べよ。じゃあな」
     立ち尽くしているナミアを置いて、ケーヒスは走り出した。彼女はほとんど無意識に伸ばしていた手の先を、おもむろに見やる。その間にも、彼の背中はどんどん遠ざかっていく。振り返ることもない。胸の奥がずきんと痛んで、彼女は顔を歪めた。
    「ケーヒス君」
     手を下ろしたナミアは唇を噛んだ。優しいケーヒスのあんな顔を初めて見た。あんな気を初めて感じた。彼はいつも彼女が困っていたら助けてくれた。泣いていたら励ましてくれた。寂しがっていたら相手をしてくれた。両親が亡くなってからは特に、一番心強い味方だった。
     何か怒らせることを言ってしまっただろうかと、彼女は首を捻る。しかし心当たりはない。小道を歩いている途中、家から出てきた彼の姿を見かけて声を掛けただけだ。昨日までと何も変わらない。家で何かあって機嫌が悪かったのだろうか? 両親と喧嘩でもしたのだろうか?
     突然のことにわけがわからなくて、彼女は俯いた。何だか泣きたくなってくる。理由を探せば探すだけ、思考は悪い方へと流されていく。
     もしかしてずっと迷惑していたのだろうか? ついつい甘えていたのが悪かったのか? 今まで我慢していたのがここにきて爆発したのか? 舗装されていないでこぼこ道がますます歪んで見えてきた。これだから駄目なのかと思うと、喉の奥が震える。
    「……何か、あったの?」
     かろうじて絞り出した声の弱々しさに、ナミアは歯噛みした。「気にしない」と自分に言い聞かせるための言葉さえ、うまく出てこない。いつもケーヒスがそうやって励ましてくれたと、思い出すだけで苦しくなる。
     遠ざかっていく彼の背中がまざまざと蘇った。また背が伸びただろうか? 細長い手足を力一杯振って駆けていく姿は、追いすがることを拒絶していた。
    「どうしよう」
     少しでも狼狽えると頭が回らなくなる。昔よりも少しはしっかりしてきたと思っていたが、勘違いだったらしい。憧れていた『技使い』の一員であることがわかってから、季節は一巡りした。未知の世界には驚きの連続だったが、おかげで逞しくなってきたと感じていたのに。これではよく泣きじゃくっていた頃と何も変わらない。
    「ナミアさん?」
     涙がこぼれそうになった時、背後から声が聞こえた。動揺しすぎて誰かが近づいてきたことにも気づかなかったようだ。はっとしたナミアは顔を上げ、瞬きでどうにか瞳の滴を目尻に追いやる。そして勢いよく振り返った。
    「ジュリちゃん」
     気遣わしげにたたずんでいたのはジュリだった。ここよりさらに町から外れたところに住んでいる技使いの少女だ。ナミアとは一つしか違わないのに、誰よりも落ち着いているし優しい。ナミアが一人でいるとよく声を掛けてくれる。
     技使いとしても先輩で、困った時に頼りになるお姉さん的な存在だった。ケーヒスとよく似た赤茶色の髪を、今日は左右で結んでいる。ナミアの髪は亜麻色なので、いつも少しだけ羨ましく思っていた。
    「どうかしましたか?」
    「あ、え、ううーんと、何でもない」
     ナミアはどうにか笑顔を作った。こんな些細なことで心配をかけてはいけないと、慌てて取り繕う。優しい人の前ではつい甘えがちになる。ジュリは察しがいいから要注意だ。

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