こちらのアイテムは2016/10/8(土)開催・第4回 Text-Revolutionsにて入手できます。
くわしくは第4回 Text-Revolutions公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

CROSS in the Night

  • 委託-11 (ファンタジー)
  • くろすいんざないと
  • 天海六花
  • 書籍|新書判
  • 180ページ
  • 800円
  • http://lyufayran.holy.jp/
  • 2016/3/21(月)発行
  • ほのきゅん歳の差恋愛小説
    平凡な大学生・双葉の家に、突然、留学生のコイルがやってくる。
    初対面なのに生意気なことを言うが、可愛いところもある。
    傍若無人でミステリアスな彼に毎日振り回される双葉。
    ある日彼は意味深な笑顔をたたえて言った。
    「約束を覚えてる?」

    テキレボアンソロ「祭」参加作品の本編!
    http://text-revolutions.com/event/archives/6327

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     駅の南口の外、待ち合わせ広場は、他にも多くの待ち合わせで人が溢れているだろうからと、双葉は待ち合わせ場所にあえて、人通りの少ない北口の改札付近を指定した。北口は大学方面の電車からも逆方向になるので不便ではあったが、顔を知らない相手と待ち合わせるには、人が少ない方が何かと都合がいいだろうと思ったのだ。

     顔を知らないと言えど、相手は外国人である。それなりに目立つ姿形だろうと踏んでいたので、写真などは用意してきていない。今朝、突然のことだったので、間に合わなかったという理由もあるが。

     約束の時間ちょうどになって、双葉は北口改札にやってきた。電車は五分ほど前に到着しているはずなので、待ち合わせの彼が無事にそれに乗車していれば、もうとっくにここで待っているはずである。

    「外国人の男の子っていうくらいだから、高校生でもきっと背の高い子だよねぇ?」

     双葉はキョロキョロと周囲を見渡すが、思い描いたような背の高い外国人はいない。だが、小中学生くらいの見た目の、可愛らしい銀髪の少年がふと目についた。

     彼は大きめのトラベルバッグを肩に下げ、ぼんやりと券売機上の路線図を眺めている。

    「まさか……外国人なのに背が小さい、とか?」

     外国人=背が高いとは、双葉の偏見である。それは自分でも理解していて、双葉は改めて、今朝、両親からもらった留学生の特徴を書いたメモ用紙を取り出した。

    「日本では高校一年生に当たる歳で、それから……銀髪で中肉中背?」

     中背というには、背が低い。同年代の日本の高校生と比較しても、小さい。そして服の上からでも分かるほど、痩せぎすな体格。どうみても中肉とは言えない。

    「ううん……人違いかな? ……でも他に外国人の子なんていないし……」

     双葉が戸惑っていると、路線図を眺めていた彼がふと振り返った。刹那、双葉の背筋が凍りつく。

    『や、だ……なに? この感覚……わたし、あの子に何かした?』

     ジロジロと見ていたことを、彼が怒ったのかもしれない。そう思った双葉は慌てて詫びようと口を開いた。しかし、声を発したのは彼が先だった。

    「君がイイヅカフタハ?」

     突然名を呼ばれ、双葉は息を詰まらせる。

     長めの銀髪の奥にある、濁った紅い瞳がじっと双葉を見つめている。驚くほどに整った顔立ちだが、双葉にはどこか恐怖にも似た感情を抱かせていた。嫌悪とは違う、何か分からない、言い表せぬ〝嫌な〟感覚。

     決して彼が嫌という訳ではない。彼を見たことによって、双葉の心の奥底で、何かがざわついているのだ。

    「……君がイイヅカフタハなの? 僕の言葉、理解できてる? 日本語、間違ってる?」

    「あっ! え、ええ! そうです!」

     呆れたようにもう一度繰り返された言葉に反応し、双葉は慌ててペコリと頭を下げた。

    「わたしが飯塚双葉です。あなたを迎えに来たの。コイル・T・キープ……くん?」

    「遅かったね。待ちくたびれちゃった」

     今朝、幸彦からは聞いていたが、驚くほど滑らかで流暢な日本語だった。

     双葉は再び彼を──コイルを見つめる。聞いていた特徴とはあまりに違う、幼い容姿。だが先ほどまで感じていた〝嫌な感覚〟は消え失せていた。


     コイルはふっと一度ため息を吐き、だが次の瞬間には愛くるしい笑顔になっていた。

    「これからよろしく! お姉ちゃん!」

    『か、可愛いー!』

     双葉は思わず頬を染める。それほどまでに愛くるしい笑顔を向けられたのだ。これが可愛がらずにいられようか、といったところである。


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