こちらのアイテムは2016/3/21(月)開催・第3回 Text-Revolutionsにて入手できます。
くわしくは第3回 Text-Revolutions公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

輝け!KAMAKURA☆892

  • 委託-34 (ライトノベル)
  • かがやけ かまくらばくふ
  • 江間アキヒメ
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 88ページ
  • 500円
  • 鎌倉幕府初期の将軍&御家人たちが、現代美少女に転生して人気と知名度アップのためにアイドル活動開始!

    北条政子をプロデューサーに立ち上げたユニット名は、「KAMAKURA☆892」!

    三浦半島でのグラビア撮影騒動「水着だよ!KAMAKURA☆892」同時収録。

    〈以下、試し読み〉

    「輝け! KAMAKURA☆892」
     プロローグ「始まりは将軍の一言」

     闇の中には死者の街道がある。ある者は目的なくさまよい、ある者は安住を求め駆け回る。己の行く先を決められず漂う者もあれば、未練や好奇心にかられ、生者の世をのぞき見る者もある。その中に、彼らは紛れていた。
    「む~~~~」
    「どうしました、そんなに不機嫌で。あら、また新しい漫画買ってきたんですか? 今度はあなた出てますの?」
    「出てないよ! 源平合戦だって言うから、こっそり買いに行ったのに! また義経が主役だよっ!」
     木造屋敷の中で不機嫌そうにうなる烏帽子姿の男が、読んでいた漫画本を投げ捨てる。傍らに寄り添った尼僧姿の女は、空中で受け止める。そのままパラパラ眺めたかと思うと、そっと懐にしまいこんだ。
    「うわ~~~~ん、悔しいよ、政子ぉ。何で義経ばっかり人気なの、将軍だって頑張ったのに、初めての幕府作ったのに、悪役だったり出てこなかったりするんだよ~」
    「はいはい、泣かないの。歴史小説では格好いい時もあるでしょう。ドラマでもイケメン俳優が演じてくれてるじゃないですか」
    「義経は漫画でもイケメンだよ~。あいつ勝手なことしたから怒っただけなのに、将軍冷血非情って言われてるんだよ~。ひどいよ~」
    「ええ、ええ、本当にね。ほら、もう思う存分お泣きなさい」
    「うわ~~~~~ん」
     政子はすがりついてくる夫の背を、優しくさする。鎌倉幕府の創始者として、威勢厳粛と称えられた夫・頼朝だが、実は涙もろい寂しがり屋なのだ。
    「えぐっ……えぐっ……」
    「将軍、出てくるだけいいじゃないですか。私なんて名君の息子は創作されないし、自分が出たと思ったら必ず悪役ですよ」
     二人の様子を傍で見ていた男が、口を挟む。政子も頼朝も顔を上げて目を丸くした。
    「義時、いつからいたの」
    「ずっといましたよ」
    「帰れ。将軍と政子の邪魔するな」
    「ひどいですね。生きてる間は家子専一に任命され、御寝所の警護もしてた仲なのに」
    「だからって、政子につきまとうな。お前にだって嫁さんいたのに」
    「姉上をお守りしてるだけです。将軍が浮気したときに慰める役も必要ですからね」
    「ぐ……だが、政子は渡さん!」
    「姉上は鎌倉の母です。幕府の支柱ですよ、奪う奪われるといった存在じゃありません」
    「むむむ」
    「ふふん」
     頼朝と義時がにらみ合う。政子はため息をつき、そっと二人の間に滑り込んだ。
    「いい加減にしなさい、二人とも。鳩サブレー食べて仲直りなさい」
     袖の下から、政子は鳩サブレーを取り出した。現代における、鎌倉土産の定番だ。一瞬顔を見合わせた二人だが、同時に手を伸ばし受け取った。
    「うん、いつもながらおいしいね」
    「素朴ながら飽きのこない味。万人向けで鉄板土産ですね」
    (なんだかんだいって、実の兄弟より仲いいのよね、この二人)
     頼朝と義時は、縁側に並んで鳩サブレーをかじっている。その背中を眺めつつ、政子も自分の分を食べ始めた。通りには半透明の死者たちが右往左往しているが、見慣れた光景なので気に留めない。
    「やっぱりさー、義時も納得いかないよね。みんなで頑張った幕府の事は知らない人も多いんだよ」
    「許せません、私の一族も身命捧げたのに」
    「政子も結構悪役にされるよね? あー、もうなんでかなぁ。もっと人気出ていいはずだよ!」
    「北条家だって、幕府を支えて守ったんですよ。そろそろ悪役から脱出したいです」
    「義経ばっかずるいよ~。将軍も人気者になりたいよ~。政子、いい案ないかな」
    「なぜ私に聞くんですか………と言いたいところですが、考えがあります」
    「え、ほんと?」
    「どのようなお考えでしょう。姉上、私にも教えてください」
     二人がそろってにじり寄ってくる。政子は小さく咳払いをした。
    「転生するのです」
    「てん……」
    「……せい」
    「そうです。平和で落ち着いた世に転生し、我々の知名度と好感度を高める運動を行うのです。我々以外にも、不満を持つ同志は多くいるはず。皆の総力を結集すれば、あなたの願いも叶えられます!」
    「そのような事が……できるのでしょうか」
    「私に任せなさい。転生後の計画も立ててあります」
    「さっすが政子! 頼りになる~。将軍、ずっとついてくよ!」
    「姉上がそこまで決意されているとは。私もお供します。ぜひお側に置いてください」
    「あなたたちがそう言ってくれるなら、迷っていましたけど実行する事にしましょう」
     政子はすっと立ち上がり、縁側に歩み寄った。頼朝と義時が自然に左右に控える。
    「聞きなさい、さまよう御家人たち!」
     凛とした声が、闇の街道に響き渡る。右往左往していた群れが、ぴたりと止まった。
    「むなしく時は過ぎ、我らの記憶は人々から薄れ去った。鎌倉征夷大将軍は、激しくお怒りである!」
    「え、いや将軍、そこまでは……」
    「しっ。いいとこですから、お静かに」
    「ものの数にも入らぬ我らはまだしも、大恩ある将軍がおとしめられるなど言語道断! 今一度我らで御名を盛り立てるとき! 心ある者は我に続け! いざ! 鎌倉!」
    「オー!」
    「「「オーーッ!!」」」
     政子のかけ声に合わせ、義時と頼朝が拳を上げる。亡者の群れも力強く拳を振り上げ、しばらく闇の街道に雄叫びがこだましていた。

    第一話「KAMAKURA☆892、始めます」

     段葛の上を風が強く吹き過ぎた。両脇に植えられた桜が、ふくらみかけたつぼみをかばい枝をしならせる。政子は目を細めて、愛おしげに見上げた。時が経ても、花の美しさは変わらない。風で乱れた短い髪を撫でつけ、人波に目を向けた。参道はかつてよりも短くなっているが、八幡宮への参拝者が絶えることはない。
     そろそろ、あの人も来る頃だ。
     視線が一人の女性を捉える。動きに合わせて揺れる豊かな黒髪。清楚な白のワンピースに薄桃色の上着を羽織っている。衣服の上からもよくわかる豊かな胸。凛々しさをまとう美貌に、すれ違う誰もが目を向ける。まとわりつく視線を特に気にする様子もなく、彼女は軽く周囲を見回した。
     あ。
     政子を見つけ、唇が半開きになる。小さくうなずき微笑んだ。牡丹が花開くように彼女の顔がほころび、政子が動くより先に駆け寄ってきた。
    「政子!」
    「うわっ、と」
     勢いよく抱きつかれる。細身の政子はよろけそうになったが、政子よりも長身の彼女がしっかり支えてくれた。
    「会いたかったよぅ。寂しかった」
     頬を紅潮させ、涙目で見つめてくる。胸が締め付けられ、政子も彼女の背に手を回した。密着した衣服の隙間から、甘い香りが立ちのぼる。
    「私もです。頼朝様。この日をずっと待っておりました」
     ささやいた言葉がかすれていた。頼朝は身をかがめ、政子の首筋に顔を埋める。吐息がこそばゆい。愛しい人のぬくもり。手が汗ばむ。頼朝の背をぎゅっと抱きしめた。
    「あー……、姉上」
     横からためらいがちに声がかけられた。政子は切れ長の目をつり上げ、声の方を睨む。政子と似たポニーテールの少女が、ほんのり頬を赤らめたたずんでいた。周りの目を気にせず熱烈に抱き合う頼朝と政子に、非難めいた目を向けている。
    「いつまでそうしているんですか。さっきから注目の的ですよ」
     無視をしたかったが、ちらりと顔を上げ周囲を確認する。行き交う人たちの遠慮ない視線が二人に向けられていた。肉感的な美女の頼朝が、中性的な容姿の政子と抱き合う姿は、何も知らない者にとっては確かに愉快な見せ物だろう。
     冷静さを取り戻し、政子はそっと手を放す。頼朝も身を離すと、ポニーテールの少女を見て首を傾げた。
    「義時? いつからいたの?」
    「最初からです! ずっと、姉上の後ろにいました!」
     義時が声を荒げる。頼朝はまったく怯まない。
    「そうだっけ? そんな自己主張に乏しい胸してるから、気がつかなかったよ」
    「む、胸の大きさは関係ないでしょう」
     服の上から見るとほぼ真っ平らな胸を指摘され、義時はとっさに手で覆い隠した。胸論争を始めそうな二人の間に、政子が割って入る。
    「ともかく、ここでは通行の邪魔になります。行きましょう」
    「そうだね♪」
     頼朝がごく自然に手を繋いでくる。指を絡めた。義時が何か言いかけて口をつぐむ。空いた手でそっと背を押し、なだめた。

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