「あたしたちのおかあさまが、帰ってくるのよ。この庭に」
糸雨の残躯/いとさめの ざんく
“この繭にはひとりきりでしか籠れない。どうしても。”
歌う繭/うたう まゆ
『糸雨の残躯 / 歌う繭』 は篠崎琴子、八坂はるのによるエブリデイマジック合同誌です。 変化を拒む少年少女「みずき」と「ゆう」の物語を一篇ずつ書き下ろしました。 「みずき」と「ゆう」、糸と繭、声、ひまわり等の共通項を持ちながら、どこかで相反しているふたつの物語をお楽しみください。
[あらすじ]糸雨の残躯 水紀は白樺と人間の、あいの子供である。
そんな異端の生まれを胸の内側に抱えた彼女は、夏が訪れた今でもまだ、全寮制の女学園に馴染めない。
彼女の話し相手はもう長いこと、女学園の裏庭に咲くひまわりたちだけだった。 ――少女とひまわりたちのもとに、優しく微笑む「おかあさま」が、夏のさなか「帰省」してくるまでは。
「私のことは、もしよければ遊(ゆう)と呼んで。水紀さんって言ったよね」
歳も近く、境遇も似通った遊。けれど無邪気なひまわりたちから「おかあさま」と慕われる遊。
初めて出会った相対する存在へと、水紀はあこがれと親しみを憶えるが……。
歌う繭 ボーイソプラノを失わないために成長を拒む少年・瑞生。 彼の思いは十六歳にして変声期を迎えていない未成熟な体と、あらゆる部分から糸がのびる病となって表れていた。 診察のために訪れた診療所で、彼は性別不詳の麗人・幽(ゆう)と出会う。幽は初対面であるはずの瑞生をに手荒い歓迎を加え、こう言ってみせた。「幽、って呼んでよ。あのころみたいにさ……瑞生」 幽は誰なのか。なにをしに来たのか。瑞生は混濁する記憶に幽との過去を探すが、そのうちに刻限は訪れる。[概要]
著者/ 篠崎琴子 「リルの記憶」
http://lir.verse.jp/ @lirmemo 八坂はるの 「さかなのまぶた」
http://laikablue.web.fc2.com/ @mnur_bnk 装丁/文庫(A6)94頁
なお、もともとは水色と黄色の糸を抄きこんだ「てまり 水黄」という紙から発想した物語です。このてまりで作った帯を本体に巻く予定ですので、紙の風合いとあわせて物語の世界観を感じていただければ幸いです。