領主の息子と滝壺の水妖、水都の王と死を司る巫女。水の乙女と人間の男、王族と平民。種族や立場故に結ばれることの叶わない二人は、それでも出会い、惹かれ合う。中世ヨーロッパを舞台にした民話調の幻想譚を2編収録。
※サイト公開中の「水妖の滝」「月の船」を微調整して再録したものです。内容はほぼサイト収録のものと変わりません。
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http://pluie.halfmoon.jp/novel/short/falls/ 【本文サンプル】
急峻な道を辿って谷へと下り、馬と並んで水を飲んだガスパールは、川縁を下って行くことにした。このあたりを流れる川ならば、ルシエンテスの荘園を流れる大川と合流するはずだ。
しばらく行くうち、ガスパールは水音の質が変わったのを感じた。穏やかなせせらぎの音に代わり、滝の流れ落ちる、轟々と大きな音がする。川の両脇の崖は切り立ち、高さを増し始めた。ガスパールは崖に刻まれた獣道を下って滝壺へと降りた。
道は滝の前へ通じていた。滝壺の周囲は岩場となっており、その外側を木々が囲み、そのさらに外は切り立った崖で囲まれている。岩場に生えた草木は飛沫に濡れ、陽光を弾いて輝いていた。滝壺から流れ出た水は岩場を走り、あるいは砂地を通ってせせらぎを作り、透明な流れとなって川下へと流れていく。滝壺から出る道は、ガスパールが今降りてきた獣道と、川沿いのあるか無きかの苔むした小道の二つだけだ。二つの道が交わる先では、漆黒の巨石が滝へと張り出していた。
その岩の上に、一人の女がいた。
女は滝の水飛沫に濡れて陽光を弾く、黒く大きな岩の上、岩が滝に向かって手を差し伸べているかのような、その先端に立っていた。両の手に薄布を持ち、それを頭からかぶっている。布は彼女の表情のほとんどを隠し、滝壺へ落ちる水が作る風に揺れていた。布の下からは長い漆黒の髪がのぞいている。着ている服はガスパールの知らない異国の衣装だった。