「深咲さん。これを鬼の霍乱といいます」
「へぇ、そうなんだ」
「お前ら好き勝手言いやがって……」
東の島国からこっち、西の大陸へやってきて半年。宙夜と眞昼、そしてあたしは護衛のお仕事をしながら決まった行き先のない旅をしていた。
そんなある日、宙夜が倒れたの。熱を出して。
火照った体を起こして気だるそうにあたしたちを睨み、宙夜は何か言おうとして激しく咳き込む。
「風邪ですね」
「だよね」
「くそぅ……」
昨日の夜はちょっと冷え込んだ。なのに宙夜は熱いからってお布団蹴飛ばしてたからだよ、風邪ひいたの。多分。
「お布団蹴飛ばすのが悪いんだよ」
「へいへい、仰る通りだよ」
宙夜はおとなしく、濡れた手ぬぐいを額に乗せて横になる。
「あたし、お薬買ってこようか?」
「解熱の薬なら多少の買い置きはありますが?」
「やだね。眞昼の薬は不味いんだからよ」
んー、美味しい薬なんてないと思うんだけど……。
「全く子供ですね」
「あははっ! じゃあやっぱりあたし、お薬買ってくるね。あんまり苦くないやつ」
「おう、任せるぞ。深咲。責任重大だぞ」
あたしは眞昼にお金をもらって、お宿を出た。