――女王を失くした主に尽くす幼い兄弟がいた。ある日一人の男が主を訪ねる。――
<冒頭一部抜粋>
トンネルのような回廊は、いつもより濃い暗闇でした。
正しく並列された灯火がゆらゆらと陽炎のように揺れて、おまえの訪れを告げました。
回廊の終わりが旅の終着点となり、目の前には次の始まりに続くドアがありました。
ドアの前でしばらく立ち尽くしていた、その時間こそが、おまえの決意と重みを表していたのだろうと思います。
そしてついにドアを開け、寝床に横たわるわたしへ姿を晒したとき、思わず目を見はりました。
やせっぽちの体に真っ黒なぼろ布を重ね着し、武器のひとつも持たない、こんなにもみすぼらしい姿だとは思わなかったのです。そんな酷い装備でこれほど深い場所へ到達するとは、鬼気迫るものを感じました。
その執念を讃えおまえの要望を受け入れましょうと言ったところ、
「では、どうしてこんなことになったのか説明してください」
俯き加減で表情はよく見えませんでしたが、呻くように吐き出された言葉に促され、これまでの詳しいことを語ることにしました。
長い話になるので、ベッドの横にある椅子を勧めたところ、
「俺がそんなに近くへ寄ることを、許されるのですか?」
わたしの労りにおまえは警戒したのでしょうか。しかしいぶかしむ口調とは裏腹に、おまえの風貌はどこか暖かみを感じたので、わたしは黙って頷き語り始めました。
創作文芸見本誌会場でも立ち読みできます。
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