★長編上等/キャラクターカタログ参加作品★
あらすじ
『俺は、そういうやつが大嫌いなんだ』
ひょんなことから一緒に魔法国を目指すことになったカナ、アイリ、君楊、そしてリョウ。だが、彼らが着いた先は魔法国ではなくて……? そこで巻き起こるのは、笑いか? それとも彼らのシリアスな事情なのか? そして『あのキャラ』が見せた言葉の真意とは?
「貴女のこと探してたんです!」
そしてついに、目的を果たせるカナだったが……? 事態は一気に急展開! 小旅行は果たして、どうなる?
どたばた異世界ファンタジーコメディ(でもちょっとだけシリアス)、第2巻!
サンプル
どうも、それはこの国の恒例行事であるらしい。 あるときは祭りのメイン、あるときは他国からやってきた使者を迎えるときに、そしてまたあるときは裁判の判決に。大事と思われる二者一択の行いにはこれでもかというくらい『王様をギャグで笑わせる』という儀式が行われる。別名『ギャグ国』とも呼ばれる事がある、ここ『笑国(しょうこく)』では有名なことだった。 兵士の中から隊長をきめるテストまでもがこの『儀式』を行うくらい、この行事は神聖なものとして取扱われているらしい。 先程絨毯の模様を見た際に、カナ達はここが魔法国ではない事を把握した。同時に、そういう国の背景があるため、ここが笑国であるということも理解していた。だがしかし、こんな突拍子の無い出来事に遭遇するとはさすがに予想出来ず、事態を理解するのに少々時間を要することになってしまった。
「つまり、そういうことなんですよ。王は代々ギャグを受け継いでおられます。……ここだけの話、ああ言っていますが、単調でもオーソドックスでも貴女達が楽しく言えば、それでどうにかなりますから」
というより時間を要してもこの状況が理解できなかったため、結局看守に説明してもらっていた。彼もこの儀式を受けたのだろう。はらはらと涙を流すようにしつつ、最後の方だけは小さな声で、テストに対するアドバイスをする。
「それではまずそこの青いの。お主はどうだ?」
「えっ!」
初めに指差されたのは君楊だった。彼らしくもない驚きの声が漏れる。
看守はそそくさと王の隣に戻り、君楊に向かって小さく頷いた。アキラからはその動きは死角となって見えない。 じりじりと、沈黙が襲ってくる。かなり短い時間のはずであるが、君楊にとってはじゅうぶんすぎるほど長い時間に感じられた。
「ふ……ふとんが、ふっとんだ」
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話が進展しないまま食事を続ける。アイリがテーブルに置かれていた紙を、ひらと自分の方に持って来て眺めた。
「あらー、ミスター・ミウラの技術ねえ」
いつの間にかアイリの隣には体格のいい女性がやってきていた。赤色のフレアスカートに、白色のエプロン。それから橙色の三角巾をつけて、手には一回り大きいバスケットを持っている。
そうしていつの間にか減っていたカナ達のテーブルにパンをひょいひょいと追加してきた。
「本当に偉大なお方よね。彼やお弟子さんたちがいなかったら、こんなに生活が便利にならなかったでしょうに」 「自分もそう思います」
アイリが営業ボイスで返事する。
魔術が発達したこの世界で、とらえ方さえ間違えれば魔術戦争や差別が起こるかもしれなかった。
魔術者が、能力のない者を虐げようとした風習もあったのである。今こそ属性も魔術も平等な扱いをされているが、それにはこの『機械技術』の発達が影響していたのは間違いなかった。 遺伝で決まる魔術と違い、機械技術は誰でも利用できる。実は値段が高いと言っても、魔術連盟の術既製品よりもうんと手が出せる値段だった。 アイリが錬金術などを嗜むのも、そのように安価で人に提供できる技術を尊敬していたからだった。