二次創作ノベルMAP 様参加作品。
R18 刀剣乱舞 燭台切光忠✕大倶利伽羅 みつくり小説
発声の出来ないバグを持つ燭台切光忠だが、大倶利伽羅にだけはその声が聞こえていた。しかし、或る日を境に他の刀剣男士に聞こえ出した光忠の声が、逆に大倶利伽羅に聞こえなくなる。徐々に失っていく声の記憶に怯える大倶利伽羅の話。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9166302 以下本文より一部抜粋
「入るぞ」 審神者の居室の前で声を掛け、襖を開く。中からいつもの小言を云う歌仙兼定と、それを宥める審神者の声がした。
「大倶利伽羅」
名を呼ばれてそちらを振り返る。
其処には黒い戦装束の、燭台切光忠が座していた。
「みつ――」
「わざわざ来て貰ったのは他でもない、彼の事」
応える為の言葉に被せるように審神者が話し始めたのに途惑い、視線を巡らせる。一瞬目が合った光忠は僅かに眉目を寄せて苦く笑うと、審神者の方へと膝を向けた。
「……」
改めて審神者に向き直り、正面に腰を下ろす。それを合図にするように、審神者が口を開いた。
「彼が燭台切光忠。まあ、演練で余所の本丸の彼に会った事もあるし、伊達家で同じ時間を過ごした事もあるのだから、知っているとは思うけど」
確かに演練で相対した光忠と同じ姿形。視認できる範囲でも理解できるが、それ以外にもその存在自体が其処に座す男士が燭台切光忠である事は間違いないと告げている。
そして何より、その声。
人の身を持たず意識だけの自分たちが互いを識る唯一だった頃、ずっと傍らで聴いていた声。低く静かに染み入る声が、彼が光忠だと告げていた。 「バグの原因は今のところ不明。それ以外は何も不具合が出ていない。寧ろ、全く不具合が出ていないのにバグが発生している、と云った方が良いかな」
審神者が頭を掻きながら、宙に浮かぶ発光する文字の羅列を眺めて溜息を零す。
「まあ、ぼくや君達はその性質上、大して不便は感じないのだけれどね」
宙の文字列を手で消して、隣に座る近侍を見やる。近侍の歌仙兼定は視線を逸らしたまま小さく息を吐いて、審神者の言葉を引き継いだ。
「手入れでも治らない。刀解――」
思わず、肩が跳ねる。
「刀解して次の燭台切光忠を待っても良いが、主は刀解したくないそうだ」
知らずに入っていた肩の力が抜け、思わず光忠を見た。
「……僕は大丈夫だよ」
「ああ」
口角を上げる光忠に頷いて、再び審神者に向かう。
「光忠にバグが有るのは解った。それで一体、バグとはなんだ?」
見る限り、光忠の何処にも不具合を感じない。
「あれ、気付かない?」
「?」
目の前で審神者と歌仙が顔を見合わせる。そして二人同時に光忠の方を見やるのにつられて、其方へと視線をやった。
「ごめんね、伽羅ちゃん。どうやら僕は――」
「燭台切光忠は、声が無い」
きっぱりとした審神者の断定。
声が、無い。
「声が無いとはどういう事だ」
「そのままの意味さ。彼は発声するという機能に於いて、バグを起こしている」
俄には信じがたい。理由はひとつ。
「俺には聞こえている」
「え?」
審神者だけじゃなく、歌仙までもが素っ頓狂な声を上げる。寧ろ、そんな声を出したいのは此方の方だ。
「光忠の声は、聞こえている」
「そう感じる、と云う事ではなく?」
「ああ」
正面の審神者を睨むように見据え、ゆっくりと肯いてやる。暫く目を合わせていた奴は、何かを思い付いたように口を開いた。
「成る程」
先程も云った通り、ぼくや君達はその性質上、声が無くとも意思の疎通が可能だ。 ぼくは声無き物達の声を聴いて顕現させる事が出来るし、君達は人の裡なる声を聴き、受け容れて付喪神として存在している。
声、という媒体が無くても意思を通わせるのに、在る程度は不自由しないという訳だ。
さて、今回の現状だけれど、残念ながら燭台切光忠の声を声として聴いているのは、大倶利伽羅、君だけだ。ぼくも歌仙兼定も、彼の声を聴いていない。データ上も燭台切光忠は発声していない数値を表している。
勿論、大倶利伽羅。君の話を否定する気は全く無いよ、安心してくれ。
うん。興味深い。
そうそう、大倶利伽羅と燭台切光忠は伊達で一緒だったんだろう。その頃の声を記憶しているのではないかな?
だとすれば、大倶利伽羅、君の記憶が燭台切光忠の声を取り戻す切欠になるかも知れない。 元々、旧知の君に彼の事を任せようと思っていたところだ。バグの件も込みでよろしくお願いするよ。
話し終わった審神者は頭を下げると、奥の間へと下がっていく。後追う歌仙が振り向いて手元にある書類を改めて読み上げた。
「部屋は同室。これについてはいくら貴殿が独りを好むとは云え、本丸の事情だ、諦めてくれ。それから内番も二人でやってもらう。出陣だけは燭台切の練度が上がるまでは別だろうが、戦闘こそ意思の疎通が必須、直に同じ部隊になるだろうね」
「……解った」
「有難う、歌仙くん」
隣で歌仙に向かい礼を云う光忠の声はやはり届いてはいないようで、それでも口の動きと表情とで察した歌仙は笑みを寄越している。
「声が出ないのが燭台切で良かったよ。貴殿だと全く表情が読めないからね」
「……勝手に云ってろ」
「伽羅ちゃんっ」
何時もの調子で軽口を叩き合えば、光忠が慌てて間に入る。
「いや、済まないね。つい絡みたくなってしまう……雅じゃない。気を付けよう」
歌仙との軽い鍔迫り合いのようなものは毎度の事で俺自身はさして気にもならないが、不安げな様子の光忠を察して、歌仙は大仰に咳払いをして奥の間へと審神者に続いた。