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【ハイファンタジー】砂の棺 if 叶わなかった未来の物語

  • すなのひつぎいふかなわなかったみらいのものがたり
  • 天海六花
  • 書籍|新書判
  • 312ページ
  • 1,200円
  • 2018/07/16(月)発行

  • 長編【砂の棺】シリーズ3(外伝1)

    「砂の棺」完結後の「誰か」が思い描いた、 叶わなかった未来の幸せな幸せな物語。
    北の町ミューレンでのカルザスとレニーの日常。 そして新しく出会う人たちとのふれあい、事件。
    「ずっと一緒にいよう」

    --------------------------------------------------------------------------------------------------
     
      野菜とチーズのサンドイッチの周囲には、ミートパイやマッシュポテトのサラダなどが並べられている。普段、接客の空き時間の隙にさっと作る手抜きの昼食に比べれば、遥かに豪盛な昼食だった。
      いつもの三人の定席に、今日は一つ余分に簡易椅子を出している。もちろんパルの分だ。
      だがパルはその席には座らず、レニーの膝の上にちょこんと座っていた。
     「パル。レニーさんのお膝に座ってたら、レニーさんが重いし食事をしにくいでしょ。ちゃんと椅子に座りなさい」
     「やっ! パルここがいいの!」
      幼児特有のワガママで、パルはレニーにしがみ付く。レニーは苦笑してホリィアンを宥めた。
     「ホリィ、いいよ。どうせそっち座らせても、事あるごとにおれに絡んでくるだろうし」
      すっかりパルの性格を見抜いているレニーは、彼が膝の上から落ちないように、その小さな体に腕を回して抱え直した。
     「すみません、レニーさん。パルはここまでワガママじゃなかったんですけど……」
     「仲良しさんでいいじゃないですか」
     「カルザスさん。ガキって意外と重いんだぜ。今夜寝てる時に、腹の上にパルと同じ重さの石でも置いてやろうか?」
     「わざわざお手間をお掛けするのも申し訳ないので、遠慮しておきますね」
      カルザスはさらりと笑顔で受け流し、グラスに冷やした香茶を注いで回った。
     「ねぇレニー。これパルがつくったの! たべて!」
      パルが少し中身の溢れたサンドイッチを差し出してくる。その崩れ方はたしかに、不器用な幼児が作ったものであることを明確に示していた。
     「あっ、形は悪いですけど、味付けはわたしがしましたから大丈夫ですよ!」
      ホリィアンが慌ててフォローする。
      レニーはパルの手からサンドイッチを受け取り、パクリと頬張った。パルがワクワクしたような表情で、レニーの感想を待っている。
     「うん、美味いよパル」
     「わーい!」
      パルが嬉しそうにはしゃぎ、小さな手を叩く。レニーは手にしていたサンドイッチの残りを口に放り込んだ。
     「レニーさんはミートパイは苦手でしたよね? マッシュポテトにも少し香味付けのためのベーコンが入ってるんですけど、大丈夫ですか?」
     「少しくらいなら平気だよ」
      カルザスにミートパイを切り分け、ホリィアンはマッシュポテトのサラダを小皿に取り分けてレニーに差し出す。
      彼女のミートパイをフォークで一口にすくい取り、カルザスはそれを口へと運ぶ。
     「美味しいですよ、ホリィさん」
     「良かった! どんどん食べてくださいね」
      ホリィアンは嬉しそうに、二人の男達に料理を勧めた。
       
     四人の食事が進む内、レニーはふと、膝の上のパルの行動に疑問を抱いた。
      レニーに自分が作ったサンドイッチを何度も勧めてくるのだが、彼自身は一切食べようとしないのだ。だが、ホリィアンの作ったミートパイは口の周りをベタベタに汚してまで食べている。マッシュポテトも口にしていない。
     「パル。お前おれにばっか食わせて、なんで自分はサンドイッチ食わないの?」
      レニーが疑問を口にすると、パルは露骨に体を強張らせた。そして唇を尖らせる。
     「パ、パルおなかすいてないもん……」
     「嘘つけ。ミートパイばっかガツガツ食ってるじゃん」
     「ほんとだもん!」
     「パル」
      ホリィアンが嘆息しながら、パルの名を呼ぶ。
     「レニーさんが心配してるでしょ。正直に言いなさい。野菜が嫌いなんですって」
     「偏食か」
     「そうなんです」
      レニーはパルの口元についた、ミートパイの汚れを拭いてやりながら問いかける。
     「嫌いなのか、野菜?」
     「……うう……きらい……」
     「お昼ご飯を作るって言った時に、最初は自分の好きなハムやベーコンばかり挟もうとしたんです。レニーさんはお肉が食べられないからって何度も言い聞かせて、やっと葉野菜とチーズのサンドイッチに落ち着いたんですよ。だから自分では食べないんです」
      ホリィアンは苦笑しながら裏話を暴露した。
     「……レニー……パル、わるいこ? やさいたべないとだめ?」
     「あー……えーと……」
     「好き嫌いは良くないですね。これはちゃんと言い聞かせて教育しないといけませんよねぇ? 食育は大切です」
      カルザスが笑いを堪えながら口を挟む。レニーはムッとしてカルザスを睨んだ。
     「おれが言っても説得力ないってのを、分かってそういうこと言う?」
      レニーはくしゃくしゃと髪を掻き乱し、小さく唸った。
     「あー、パル。あのな。パルは悪い子じゃないけど、とりあえずちょっとでいいから野菜は食っとけ。おれも努力するから」
      そう言い、レニーはミートパイの一切れを手掴みで口元へと持っていった。そして意を決したようにかぶり付く。
     「あっ、無理なさらなくても……」
     「パルに食えって言った手前、引くに引けないだろうが」
     「ホリィさん、大丈夫ですよ。レニーさんはかなり意地っ張りですから」
     「うっせぇ!」
      パルは不思議そうにレニーを見つめた。
     「レニー、おにくきらいなの?」
     「嫌いとはちょっと違うんだけど、沢山は食べられないんだ。でもおれも食ったから、パルも食えるよな?」
     「……いっこだけでいい?」
     「ああ。一つから始めような」
      パルはサンドイッチに手を伸ばし、恐る恐るはみ出した葉野菜を噛んだ。
     「パル。レニーさんが見てるわよ」
     「ううー……」
      葉野菜だけを引っ張り出し、もぐもぐと咀嚼する。そして不安そうにレニーを見上げた。
     「おいしくない……でもたべたよ?」
     「うん。ちょっと食えたよな。えらいえらい」
      レニーは微笑んでパルの頭を撫でてやった。パルははにかむようにえへへと笑う。
     「ホリィのミートパイ。ソースの味は嫌いじゃないんだけど、でもおれやっぱ肉類は極力遠慮だわ。肉の食感とか脂がダメなのかねぇ?」
     「でもパルさんに格好は付けられましたよね」
     「すごい前進です。今までどんなに言い聞かせても、一口も食べなかったんですよ」
      ホリィアンが目を細めて嬉しそうに両手を叩いている。〝姉〟として、パルの成長ぶりが純粋に嬉しいのだろう。
     「むぐ……ぜんぶたべた。パル、いいこ?」
     「うん。いい子だよ。よくがんばった。えらいぞ」
     「えへへ」
      パルはひと仕事終えたかのように、満足そうな顔をしている。
     「よし、じゃあついでにも一個食っちまおうか。パルの作ったやつがちょうどもう一切れ残ってるし」
     「やーのー!」
      あははと笑いながら、四人の昼食の時間は和やかにゆったりと進んでいった。

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