地球と言っても『ちきゅう』と読んではいけない。地球は『ちたま』と呼ばれる星で、 地球が浮いている銀河系の双子銀河にある双子星である。
大日本帝國の首都、東京で一人暮らしをしている青年新橋悠希は、最近増えつつあり、 社会問題にもなっているニートの一人。
そんな悠希と共に生活をしている者が居た。
「おい悠希、ネットばっかやってねぇで飯くれよ。」
二足歩行で歩き、人間語をペラペラ喋る犬が、だるそうに煙草の煙を口から吐き出しながら言う。
「かっ…鎌谷くん!
ウチの中で歩き煙草するのやめてよ!」
自分の何分の一位しかない犬、鎌谷に、悠希は怯えながら注意を促す。
それが聞こえているのか、鎌谷はこたつに入り、煙草の灰を灰皿に落とした。
「心配すんなって。
俺が火ぃ落として小火でも起こすとでも思ってんのか?」
「だって、だって、鎌谷くんの歩き煙草で、僕の服が何着も焦げちゃったじゃん!
お祖父ちゃんが着なくなった着物くれたから何とかなってるけど…」
「細かい事気にすんなよ。何とかなってんなら良いじゃねーか。
で、飯は?早くしろよ。」
鎌谷に急かされ犬缶を開けている悠希の服装は、 彼が言った様に着物に袴と言った古風な出で立ち。
クリーム色の壁紙が貼られ、パソコンラックが置かれている部屋と合わせると、 何ともちぐはぐな感じがする。
皿に盛りつけた犬缶をこたつの上に置き、悠希は冷蔵庫の中から取り出した缶ジュースを振って、 口を付ける。
その様子を見た鎌谷が、鼻に皺を寄せ、明らかに嫌そうな顔をして悠希に言った。
「いつも思うんだけどよ、良くそんなモン飲めるな。
うぇっ。臭いだけで吐き気するわ俺。」
「料理したり買い物したりするより楽だし。
それにもう慣れたよ。」
悠希が飲んでいるのは乳脂肪分を主成分とした栄養剤だ。
鎌谷曰く、人知を超えた味。
初めの内は悠希も飲んだ後、すぐに口をすすいでいたが、今ではもう慣れた物。
一気に飲み干して段ボール箱の中に収めた。
或る金曜日、悠希は二週間に一度通っている病院から家に帰るなり、 何やら封筒を取り出して溜息をつく。
「何だ、また先生に軽くあしらわれたか?」
「そんな事無いよ。今日は障害者年金の申請するのに診断書貰ってきたんだよ。」
「へー、なんて診断されたんだか。」
「統合失調症。
一昨年の申請の時は抑鬱だったのに…鬱だ…」
悠希が貰ってきた診断書は、精神障害者年金を申請する為に、区役所に提出する物だ。
現在悠希の障害レベルは二級。
今では医者から就業する事を止められている。
ポニーテールに結っていた髪の毛を解き、万年床に寝転がる悠希に、 こたつに入った鎌谷が煙草を吹かしながら言う。
「まあ、何だ。
とりあえずそう言う事にしとけばカドが立たねぇんじゃねぇの?
精神疾患なんて複雑すぎて、複数の病名が当てはまる事の方が多いしよ。」
暫く無言の時間が過ぎる。
やがて、布団に潜り込んでしまった悠希の口から、何やら呟きが聞こえてきた。
「やっぱり僕ダメなんだ……学校卒業しても就職してないし……
ダメ人間なんだぁ……」
悠希がこうやって落ち込むのもいつもの事なので、鎌谷は何も言わずに煙草の煙を吐き出す。
ふと、にぎやかなメロディーが聞こえて来た。
その音を耳にするやいなや、悠希は布団から跳ね上がり、 まだ薬が詰まっている鞄の中を漁り出す。
「もしもし。あ、恵美さん?」
何とか取り出した携帯電話に悠希が出る。
「ごめんね、先月お金無くて行けなかったんだよ。
…ああ、うん、明日辺り行こうかなって思ってる。…うん、じゃあね。」
今回の電話の相手の恵美さんと言うのは、本名山田恵美。銀座にあるお茶屋さんの店長で、 台湾自治区出身の人だ。
とても気さくな人で、落ち込みやすい悠希の事を気に掛けている。
香港自治区から大日本帝國に渡り、子供と二人で生活をしている未亡人である恵美を、 鎌谷はいたく気に入っている。
「明日恵美さんち行くんだったら俺も行きてぇな。何時頃にするよ。」
「何時って言われても、結構遅くまでやってるから、起きた時間によりかな?」
「じゃあ今日は早寝しないとな。
開店前に行って恵美さんの着替えシーンを堪能せんと。」
「なっ!何言ってんの!犯罪だよ!」
「俺犬だから大丈夫。」
恵美の経営する台湾茶屋に、店員は恵美一人しか居ない。
だから、制服という名のチャイナ服に着替えるのは、奥の台所で済ませているのだ。
「チャイナ服萌え~。」
嫌な笑いをこぼす鎌谷を見て、悠希は明日ゆっくり起きようと心に誓うのだった。
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