こちらのアイテムは2019/3/21(木)開催・第8回 Text-Revolutionsにて入手できます。
くわしくは第8回 Text-Revolutions公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

sync 1—the Voice of Passion—

  • A-31 (現代)
  • しんく1 ざぼいすおぶぱっしょん
  • 通し稽古—Generalprobe—
  • 書籍|A5
  • 120ページ
  • 700円
  • 2017/09/18(月)発行
  • 作曲家志望の少女・柑奈は八年前に聞いたある声が忘れられず、その声の持ち主をずっと探していた。
    ある日、クラスメイトの蒼の歌声がその声に酷似していることに気付く。
    柑奈は、一緒に文化祭のライブに出てくれないかと蒼を誘うのだが――。

    syncシリーズ最初の物語。
    カエルレアが誕生した経緯を追いながら、蒼の中にいかにして「もう一人の自分」が生まれたのかを紐解いていく。

    【キーワード】
    トケイソウ・ロック・百合・文化祭ライブ・軽音楽部・合宿・幻覚

    【試し読み(抜粋)】
     結局、どこにいても変わらないのだ。
     蝉時雨が頭上から降り注いでいる。土の中でずっと息を潜めていて、ようやく外に出てきたと思ったら繁殖だけして死んでいくなんて、なんて哀れな命なんだろう。子供を残して何になる。自分が死んだ後の世界なんてどうだっていいだろう。  歩いても歩いても、照り返しの強いアスファルトの道と、手入れが行き届いていない草むらしかなかった。こんなところは私の居場所じゃない。でも、この山を下りたところで私のいるべき場所はどこにもないのだ。  どうして私がこんな目に遭わなければならないのだろう。私を虐げている人たちは、地上に出て七日で死んでしまう蝉のようなものだ。私の方がずっと沢山のことを知っている。それなのに、へらへら笑うしか能のない人たちが世界の中心に居座っているのはおかしいだろう。今は苦しくても、いつか私の方が正しかったのだと気付く日がきっと来るはずだ。  でも、こんな世界ならいっそ、などと考えてしまう私の方が、本当はこの世に相応しくない存在なのかもしれない。その証拠に、どこにも私の居場所はない。  額に滲んだ汗を拭って歩みを進めると、不意に海のような草原が眼前に広がった。セイタカアワダチソウの黄色が微風に揺れて私を手招きしている。導かれるように草原の中に入った私は、瞼を突き刺すような強い光を感じて上を見た。  何もかもを吸い込んでしまいそうな青い空が、どこまでも広がっている。小学生のとき、空の色を塗るときは上が一番濃い青で、下に行くにつれて水で薄めるといいと教えられた。けれどこの空は違っている。青はいつまでたっても濃いままだ。私が空を睨み付けても、空は何も言わない。それはただの青色でしかなかった。  まるで宇宙に投げ出されたみたいだった。微かな呼吸音が、どこにも響くことなく消えていく。足元の草を踏みしめた音すら聞こえない。蝉の声だけはやけに響いている。草が風に揺れる音もだ。私の音だけが、誰かに切り取られてしまったかのように聞こえない。  草原の中心まで辿り着くと、どこからか視線を感じた、汗が首筋を伝う。油を差し忘れた機械のようにぎこちなく首を巡らせると、そこにはいつも私の傍にある花があった。トケイソウ――それは本来、こんな高原に咲くような花ではなかった。この草原の中で、明らかにそれだけ浮いている。  じりじりと、太陽はむき出しの肌を灼いていく。お前はこの世界に相応しくない、と太陽の言葉が聞こえる。そんなことはとうの昔にわかっていたのだ、と太陽を睨み付けると、耳に痛いほどの沈黙が襲ってきて、私は思わず目を閉じる。閉じた瞼の裏で青い光が動いていた。水面のように揺らめく光は徐々に私の平衡感覚を狂わせていく。上も下もない中空に私の体は投げ出された。  慌てて目を開く。ふらついた私の視界の端に、トケイソウの花が見えた。十字架に喩えられる雌蕊に突き刺さる釘は雄蕊、副冠は茨の冠で、花弁と萼は使徒を意味する―それは受難の花と呼ばれていた。
    ひっきりなしに聞こえてくる蝉時雨と風に揺られた夏草が奏でる波の音だけが、私を現の世界につなぎ止めていた。  じりじりとむき出しの肌を灼いていく太陽。夏の太陽は冬のそれとは違って苛烈だ。私の存在ごとこの世界を焼き尽くす業火にも思える。それでいい。こんな世界は炎に呑まれてしまえばいい。私は夏に灼かれることを心の底から望んだ。  太陽を直視した瞬間、耳に痛いほどの沈黙が襲ってきて、私は目を閉じる。閉じた瞼の裏にはまだ青い光が動いていた。水面のように揺らめく光は徐々に私の平衡感覚を狂わせていく。上も下もない中空に私の体は投げ出された。  ふらついた私の視界の端に、トケイソウの花が見える。十字架に喩えられる雌蕊に突き刺さる釘は雄蕊、副冠は茨の冠で、花弁と萼は使徒を意味する―それは受難の花と呼ばれていた。  どこか遠くで声がした。声は夏の雷のように私を貫いて、私を呼んでいた。けれどまるで外国の言葉のようで、何を言っているかは判然としない。旋律を持った歌のようにも聞こえる。その言葉を聞こうと耳を澄ますと、急に蝉時雨の音が戻ってきた。  目に映る空は相変わらず青いままだ。さっきと何も変わっていない。けれど私を呼んだあの声が、まだ私の記憶に突き刺さっていた。  あの声は、とても不思議だった。昨日読んだ小説に出てきたものと似ている気もする。「淋しいんだけど慰められる、淋しいけれども励まされる、淋しいけれど勇気が出る」と描写されたその声は、「孤独の歌声」と呼ばれていた。さっきの声は確かにそれに近い。しかし何かが違う。そんな生易しいものではなかった。冷たさも熱さも両極端に振り切れていて、私の脳髄を揺さぶる。  もう一度聴きたい。私を呼んでほしい。慰めや励ましなど必要ない。この心に傷を付けて。包み込んで突き刺して。耳を澄ましても聞こえないとわかっていながらも、私はその草原に佇んで声の訪れを待った。  孤独より苦しく冷たくて、血潮のように熱いあの声にもし名前を付けるなら、それは―。

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